こうの史代 / この世界の片隅に(前編)

2017-08-28comics 漫画

試し読みで2話程読んだことがあり、レビューの評判の高さも記憶があり、立ち寄った本屋で購入。

昭和初期、舞台は戦時中の広島・呉、「暮らす」ことを優しく描いた作品。

後編はこちら



「暮らす」を学ぶ

戦時中の暮らしのことが分かってよいですね。
時間の感覚が本当に違うんだなとしみじみ思う。

昭和の年号とほぼ同じの主人公「すず」は、2015年に生きているとしたら80歳くらいだと思うので、まだまだご存命の年齢。
自分の祖父母もほぼこの年代なので、そう思うととても身近に感じますね。

例えば風呂焚きは人力、水も井戸から汲んできて水瓶へ、広島から呉まで2時間。
これだけで、如何にこの数十年で暮らしが劇的に変わったかをしみじみと…。

この年代がテーマとなると戦争の話が多いと思うけど、この作品は暮らしにフォーカスしている作品なので、主人公と一緒になって主婦業に思いを馳せることになります。。

文化の変化で言えば、こんな感じ。
まあ主人公が主婦なので女目線で偏るのだが。

・子供は父親側に親権があった
・親が結婚を決めていた(すずは拒否もできたっぽいのだが。)
・家事は全て女の仕事
・家族、ご近所など、とにかく人の繋がり合いが濃い
・ティーンで結婚/出産はあたりまえ

所謂、現代の「最近は住民同士の助け合いが少ない」ことに関しては、「助け合わなくてもほぼほぼ生きていけるから」というのが実質解だと思います。
まあ、風呂入るのに薪を用意して水を汲んできて自分で火を炊いてお湯を沸かしてたらそれだけで何時間かかかるでしょうし、食事の支度も同様。
食材を効率的にとか、労働は分担でとか、自分ちの畑を生かすとか、いろいろな意味で数人の塊を作っていないと満足に暮らせなかったんだと思います。

戦後の色々な政策により、若者の出稼ぎ用に都心に一人暮らし用のアパートが登場したり、団地を推し進めたりして、地域とほぼイコールだった人間関係のあり方が変わっていったんでしょうねえ…。

祖父母らが我々の世代を見て「ずるい」と思うのも納得ですし、ITやなんかの世界を「わけがわからない」と思うのも、まあ当然でしょう。


と、今と比べるととても大変な暮らしと思うわけですが、その面倒な家事とかを、へらっとした笑顔でこなす「すず」のその表情がいいんですよね。
お姉さんの嫌味とかもへらっと流してしまうのは、神経質な人は本当に見習いたいところ。

「大変だなあ」とも思うんだけど、それ見てると「面倒くさがりな私ももう少し丁寧に生きなくては」と思うのです。

蛇口をひねればお湯が出てきてコンロの取っ手を回せば火がついて、野菜と肉は冷蔵庫に入れればよく、安くおしゃれな服もすぐ買えて、っていうかちょっとバイトでもすれば美味しいご飯やおやつがいくらでも食べれるわけで。
すずの時代に比べたら、なにがどう面倒だというのか、という生活なはずなので、本当見習わなくてはと。

かつ、へらっと笑って出来るくらいのおおらかさを忘れないようにしたいなあと思います。


「お姉さん」「白木リン」というスパイス

内容に関しては、「お姉さん」、それから「白木リン」さんがとにかくいい味出してます。

もしこの二人が居なければ、単なる「おおらかな主人公が戦時中でもしっかりと生きていくのを描いた作品」で終わってしまう。
毒舌で厳しく、旦那と死に別れ息子と生き別れたという「お姉さん」が、嫌味も言いつつピシッと突っ込んでくれ、
どうも地味な主人公と違い、着飾って男の人の相手をする「白木リン」さんが、「女の義務ってなんなのよ?」という鋭い問いかけをしつつ、主人公の旦那の元カノだったということを匂わすという(!!!)

ウマイなあ~~~ と思わずにはいられないキャラ配置。


そして、各話とも、少し緊張を匂わせた後、最後のコマでちゃんと朗らかにオチを用意するという進め方もすごいです。

オチはオチでも、完全な冗談 → 回収 というやり方ではなく、
真実 → 別の方向から笑いを入れ込む → 笑いの方を回収 というやり方。
「真実」は消えない。

なので、朗らかに優しく笑いもありつつ進んでいくのだけど、ちゃんと、我々が日頃感じる感情のところはじっとり掴んでるわけで。

・すずの「ハゲ」やご懐妊騒動(精神的なストレス)
・「りんどう柄の茶碗」(元カノ疑惑)
・「ひー坊」(生き別れ)
・「水原さん」(隠している初恋)

あたりが物語に深みを生んでますよね。すごいっす。

後編はもしや周作さんが戦死しやしないだろうかとヒヤヒヤしております。
水原さんとの邂逅も絶対あるよね?これは。
すぐ購入予定。

映画にもなるらしいですね。

楽しみです。