インファナル・アフェアⅢ(終極無間)

2023-11-06考察, image 映画インファナル・アフェア

傑作「インファナル・アフェア」シリーズの三部作目にして最終作!

こちらは1作目・2作目とは少し色合いが違いますが、「無間道」に捉えられてしまったラウ視点からみればまさに本作が終幕といった形です。


1作目・2作目は純粋にサスペンスでしたが、本作はラウの苦悩と彼が狂っていく様子が、サスペンスとミックスしながら進んでいく形。

一作目の時間軸の6ヶ月前~10ヶ月後くらいのシーンを行き来しながら進むうえ、ラウの妄想シーンが挟まったりしてくるのと、ミスリードがあるのでかなり分かりづらい作りです。

今回のサスペンス部分は、生前のヤンやサムが関わっていることもあり、ヤンの追想シーンもある。ヤンのシーンは、ファンへのサービスという意味合いだけでなく、ちゃんと「ラウが過去に思いを馳せながら今に繋がる調査をする」「いつのまにか同化していく」というシーンになっているというトリック。

複雑なので何度か観たくなる作品です。


ラウのメンタルが狂っていく&ミスリードあり

さて、ラウは1作目のラストで「ヤンを殺したスパイ仲間(ラム)を殺す」という衝撃的なシーンで終わっていましたが、自分はなんとか嘘をついて内部調査課として復するところから始まります。
残りのスパイを始末していこうとして、ラウから見て非常に疑わしい「ヨン保安官」と、チンピラにしか見えない「シェン」についても調査を進めていきます。

本人はポーカーフェイスで仕事の虫って顔してるけど、復帰直後にすでに妄想(幻影)シーンがあるように、ちょっとメンタルは崩れはじめの傾向が出ており…。

リー先生とのやり取りのシーン

ところで一作目でヤンといい感じだったリー先生の元を訪れて、パソコンを盗んでまでヤンの記録を読むシーン。
ここはリー先生のカルテにヤンの証言のようなもの、「他のスパイの情報」とか「ラウはサムの手先だった」ことを示唆する何かを口走っていないか、そしてそれを掌握したいということだったのだと思います。

あるいはそんなに頭回っていたわけじゃなくて、「ヤンの行動や思考を知りたい」という純粋にヤバいストーカーみたいな動機だったのかもしれません。

この時くらいからラウは「善人=警官=(ヤン)」みたいに思い込み始めていて、つまり「善人になりたい」自分は「警官でなくてはならない」し、まるで鏡のような存在であったヤンは警官だったわけだから、つまり俺はヤンだ…みたいな謎の演繹が成り立ってきてしまっているのです。
ヤバいやつだ…。

まあ、ラウが盗んだPCでヤンのカルテを読む(画面は回想となる)シーンは、ぶっちゃけトニー・レオンファン向けのサービスシーンというか…、商業的なニオイをプンプン感じました。w
ヤンの妄想だと思われる先生とのキスシーンは完全なるサービスだよねw まあいいんだけどさw ニヤニヤするトニー・レオンかわいいw

で、人の良いリー先生は「困っているなら助けたいの」みたいな感じで、ヤンにやったようにラウにも催眠療法をかけていきます。
このあたりですでにラウはリー先生の手握ったりとかしてますので、完全にヤンが同化してきてます。
ヤンとラウが並んでリー先生の催眠療法に掛かっているシーンなんかも、「鏡みたいな二人」を印象づけたい演出であって「説明」的なシーンではないよなーと最初は思っていたのですが、これは「ラウが自身をヤンに同化している」という「説明」のシーンだったわけですね。

そこでラウは「サムの手先だった」と喋ってしまうのですが、まぁ、リー先生は通報とかは…しなかったんじゃないでしょうかね。(それは作中では分からなかった。)

間違ってもラウとリー先生がいい感じになる話じゃなくてよかった…。。
そんなこと起きてたらヤンのファンがブチギレてしまう。


ヨンとシェン

さて、サスペンスとしての本編はこの二人とのやりとりでしょう。

まずはヨン。
彼は香港警察のエリート保安官で、「インファナル・アフェアⅡ」でいえばハウのような、エリート風で手段は選ばない、みたいな感じ。
作品はラウ視点で進むので、このヨンがスパイなのではないか、というミスリードが序盤からずっと描かれます。
でもこの人、潜入なんて回りくどいことせずに素で警官としてマフィア(サム)と「マァお互いのために協力しましょうや」的なことをやっている人ですw だからミスリードっていうか素がもはやほぼマフィアw
熱血ゴリゴリ正攻法のウォン警視とは対照的でイイですよね~~。ここに来てキャラ揃ってきた感はんぱないです。

そしてシェン。
この人は大陸(中国)の公安潜入捜査官なんだけど、最初はマフィアとして登場しますし、なによりめっちゃチンピラっぽい風貌をしています。w
でも彼が公安だと知ってから2回目を見ると、どう見ても優しいオニイチャンにしか見えないw
ヨンに「シェンじゃないな」「本当の名は?」と聞かれたり「明るみに出られない身分だ」と言っているところからして、本物の大物マフィア「シェン」の座をぶん取って成り代わったんでしょうね。あの優しい感じでよく子分がそれで納得するな?という気がしますが。「ボスの名を語るな!!」とかならなかったんか?(完全に人間として成り代わるのは流石に手下たちが気付いて無理じゃろうから…)

(そういえばシェンってラウ自滅のシーンでめっちゃ堂々と公安として香港警察内に入ってきてましたから、この頃にはスパイが終わって公安職に復帰していたということなんでしょうね。)

さて、ヨンとシェン周りのシーンはミスリードされているので結構分かりにくいです。

過去シーン、シェンはマフィアとして登場し、サムの取引相手候補なのだがどうもサムは信用してない様子で、ヤンに取引に行かせて、いきなり「殴れ」と…。
ヤンは楯突くわけには行きませんので訳も分からずシェンの弟分を殴り倒します。それで警察沙汰になるんだけど、シェンとサムは一応取引が成立。でもサムは「どうして突然殴りかかったお前を殺さなかったんだろうな?」と、やはりどうもシェンを信用できないようです。

結局ヤンはこの件を任されますが、サムはやっぱり鼻がきくのか取引直前に逃亡し、ヤンを見殺しにしようとします。
が、ここでシェンとヤンが撃ち合いになった時に「お互いに急所を外して撃った」ことから「ん?」となり、その直後にヨンが現れて、結局3人はお互いが警官であることを知り打ち解け合います。いや~この3人の笑顔、イイね…。
ちなみにこの時に左手を撃たれたのはヤンで(だからインファナル・アフェアで左手包帯グルグル巻きだった)、右足を撃たれてちょっと足が不自由になってしまったのがシェンです。

この時、ヤンから取引の情報を得ていたウォン警視は現場を押さえに行こうとするのですが、それをヨン(公安)が「中止だ」と指示しに行きます。結局ウォン警視は出動を取りやめ…。おそらく香港警察は「大陸の公安が絡んでるから手出し無用」と通達されていたのだと思います。
ちょっとややこしいのですが、この時代は2002年のシーンであって1997年の中国返還後の世界ですから、おそらく「大陸」といえば頭が上がらない存在なのかと。
「名探偵コナン」でFBI(赤井)と日本の公安(安室)が「ここは我々のシマですが?」と睨み合うのとはちょっと違うわけですよね。
ただ、ヨン・シェン・ヤンが打ち解けるシーンでヨンは「シェンをぶっ殺しに来た」テイで来ているので、詳細は知らされずに公安としては組織犯罪課を抑え込んだけど、勝手に現場に行って美味しいとこ取りしようとした・・・という感じですかね。ヨンらしい。


それから、サムは特別ヤンを疑っていたというわけではないらしい。
どうやらパンフレットには「誰も信用できなくなっていた」と書かれていたそう。なので、「先にキョンに行けと言ったけど結局ヤンに行かせた」のも、別に深い意味はなかったっぽい。


ラウ VS ヨン によるスパイ大作戦シーン

ラウはヨンの車に発信機を着けたり、公安に監視カメラを着けたりして監視。
このあたりからラウの妄想?なのか現実なのかの見分けがつきにくくなっていきます。

たとえば、特にわからないのはこのあたり。
・盗撮カメラを仕掛けたときの「シェンの足音」は現実?
・ポストが燃えていた、そしてその後シェンがポストに来たのは現実?
・公安に忍び込んでテープを奪取したのは現実?

このへんは細かく考えても正解が分からないので、考察放棄しますw
まあ、この「え?どこからどこまでが妄想?」という描写が「ラウが狂ってきている」ことを表現しているのかとは思います。

もう少しだけ妄想シーンは色を変えるとか、二度目には分かる、みたいな配慮が欲しかったっすねぇ。
別にそこを色々考察する事自体を楽しむ系の映画じゃないと思ってるんで…。

「テープ」と「内通者」

最後はラウが自滅するどんでん返しがあるのですが、キーとなるのは「ラウとサムの会話のテープ」です。
この作品で、ココが一番難しいところ。

これ、1作目でラストにヤンが、ラウの妻マリーにも聞かせたテープ。(ラウとサムが映画館で密会しているときの会話)
ヤン曰く「サムの部屋にあった」というのもかなりの謎ですが(誰が何のためにサムの部屋に送りつけた???)、ともかくこのテープ、1作目ではヤンは警察にも送ったが運悪くスパイであるラムが処分してしまったはずのものです。
(よく考えたら、映画館での二人の会話は電話越しじゃないので、ラウかサムのどちらかに音声マイクを着けたか、まさにあのへんの映画館の席にピンポイントで録音マイクを設置していたか、というとんでもない録音方法になりますね…。いずれにしろここはちょっと非現実的です。そもそもサムの仲間なら録音する意味がありませんし、警察側の仲間だったら、この録音が出来た瞬間にラウを逮捕できているはずなのにしていないわけですから、誰が何のためにどうやって録音したのかマジで謎です。)

本作Ⅲでは、序盤で「チャン巡査部長が自殺」、のちにチャンのデスクから「チャンとサムの会話」のテープが発見されて彼はサムの手先だったことが分かった。
で、チャンが自殺するシーンで、彼はヨンに向かって「長年協力してきた」「同じ仲間だろ」「俺を死に追いやるのか」「チャンスもくれずに」と言う、これはオーディエンスへのミスリードです。
ヨンはちゃんと警官なのでおそらく、ヨンはチャンがスパイだと知り、かつ証拠を握りながら、「お前の身分をバラされたくなければ二重スパイとして俺に協力しろ」と脅していたんじゃないかと思われます。そういう奴だよね、ヨンって。この「チャンとサムのテープ」はヨンもしくはその部下が盗聴したものでしょう。
で、頃合いだなーと見てヨンは「切った」のでしょう。チャンのデスクにあったテープは、「切るぞ」という意思表示としてヨンがチャンに送りつけたというのが妥当かな。

1作目のラストでラウに殺された「ラム」が、Ⅲでは「俺たちとサムの会話」のテープが「リョン警視」のもとに届き、それを「内通者(仲間)が始末してくれた」、他に内通者は「5人」と補完する台詞を言っています。
これ、1作目では「ヤンが送ったラウとサムのテープを俺が処分した」と思われる表現をしていたのですが、Ⅲのほうを正とすると、送り主が「ヤン」だったとしたら、「俺たち」つまりラウ以外のスパイのことも分かっていたということで、だったらあんなザルな情報提供の仕方しますかね? あまりに杜撰なので、ヤンは「ラウとサムのテープ」しか手に入れてなかったしそれしか送ってないと推測しておきます。
すると「俺たちとサムの会話のテープ」はヤン以外の誰かが送ったということになりますから、5人とは別の内通者がさらに存在していて、その内通者が「俺たち」を排除するために送ったと考えるのが一番妥当でしょう。…っであったとしても、その5人に容易に処分されうるところに送るなよって感じですけど…。

ややこしい!!ww

「ラウとサムのテープ」

で、つまり「ラウとサムのテープ」はもうどこにも存在しないはずなわけです。
しかしこれが最後「ラウがヤンになったつもりになって流したテープ」として存在していました。

ラウ視点では、このテープは「ラウ本人(ヨン)が何故か自分の金庫に保管しているもの」を盗んだつもりなわけですね。
ラウとしては「何故スパイ本人がそれを処分せずに金庫なんかに入れてるのか」という謎があるはずなんですけど、そのへんはまともな判断ができなくなっているんでしょう。

「金庫からテープを盗んだのは現実か?」という議論がありますが、私は妄想派かなぁ。
最初はずっと現実だと思ってましたが、考えれば考えるほど不自然というか…。

妄想と考える根拠:
  • 睡眠薬を入れた?と思われるシーンで操作していたのはマウスじゃなく睡眠薬のケースだった(睡眠薬なんか入れてない)
  • 二人が眠らされていたというのが事件になってない、他の人飲まなかったの!?w、本当に眠らされていたとしたら公安のセキュリティよわよわすぎない?
  • ラウさん、まさかあの窓から屋上に上がって逃げたの!? あの窓ってそんなに開かないでしょ!? どんだけアクロバティック!?
  • ヨンが「お楽しみか?」といきなり電話をかけるの、そんな都合のいい謎の電話、実際のヨンならかけなくね?
  • ヨンが生前ラウの金庫に何かをしたシーンがあり、これはシェンが録画を見ているという場面なので明らかにラウの妄想ではない
ラムは「仲間が処分した」つもりでいたけど「ヨンは手に入れていた」(例えばそれは二重スパイだったチャンがヨンに流したとか)、そしてそれをヨンがラウの金庫に入れた。という感じかな。

細かいことは創作だからということで金庫からテープを盗んだのが現実だったとしたら、「それでいい」のシーンでヨンはラウの金庫になにしてたん?という疑問はある。

(ついでにラウがヨンに突きつけたテープの会話は、1ではどこにもでてきてない会話です。内容が一番近いのは映画館での会話ですが、これは映画側の都合で撮り直したんじゃないかなぁ。上記に書いたように「映画館の会話の録音なんて誰が出来たんだ?」という矛盾を指摘されたからとか? シェンが持っていたテープは「ウォン警視の死後のラウとサムの電話越しの実際の会話」で1でちゃんと喋っている会話です)


ヨンの「そう、それでいい」の録画

ヨンの死後にシェンは、公安が内務調査課を盗撮していたビデオの「ラウの金庫を触るヨン」を見てため息をついてます。
このシーンでは、ヨン自身がテープをラウの金庫に入れたことを示唆するシーンと思うのですが、ヨンがカメラに向かって(自分の死後にそのビデオを見るであろう人に向かって)「それでいい」というのは、ヨンのやり方が汚かったというのを責めてこそ警官だぞ、ということかなと。
シェンがヨンの「それでいい」録画を見て溜息付くのは、「お前はそのやり方のせいで、結果的に殺されたんじゃないのか…まったく…」という感じ?

冒頭のチャンは「自殺」だったけど、あそこでヨンが殺されてても全然おかしくなかったわけですからね。

ヨンとシェンの、何を「はじめよう」だったのか

つまりヨンは内通者をほぼ全員知りながらも、ラウを泳がせて他の内通者を処分させた。

ヨンは冒頭のクラブシーンで「チンピラにチンピラを殴らせる」とかしているし、かつてヤンとシェンと出会った時も「さっさとそいつ(ヤン)を殺せ、そうしたら俺がお前(シェン)を殺す、弾の節約になる」みたいなことを言ってますので、完全にそれと同じ流れでしょう。

そういえば「リー先生宛に、ヤンの名前で送ったテープ」はヨンがやった現実だと思いますが、とすると「最近ご執心のリー先生から罵られてみてはいかがか」という嫌がらせを試みた……とかなのかなぁ。
リー先生に送ったのが盗聴のテープだったとしたら、彼女に危険が及びますのでさすがのヨン様もそんなことはしないと思いたいのですけど。。なのでヨン様のブラフ攻撃かな?リー先生からしたら超迷惑だねぇw
リー先生に届いたテープはただのブラフで実際には「無害なテープ」だったとして、すると中身としてあり得るのは最後にラウの金庫から出てきた「被遺忘的時光」の歌のテープとかでしょうか。
ヤン本人が「俺がいなくなって10ヶ月経ったらこれをポストに投函してくれ」とかいう伝言を誰かに残した、そして中身はリー先生に向けて「被遺忘的時光」とかだったらちょっとオシャレだったかもだけどw


で、ラウが概ね内通者を消し去ってくれたので、いよいよチャンにしたように脅しのつもりでラウにテープを送りつけたが、ラウは錯乱して自分をヤンだと思ってたのでいきなり乗り込んできた、と。

ところでシェンはなにをしてたん?というか何かしたっけ?って感じですが、まあ裏で色々と協力していたんでしょう。
「ウォン警視を殺さなければ俺がやられていた」というラウとサムの会話のテープはシェンのつてで入手できたということのようですし。

色んな所で誰かが盗聴しまくっている。笑


何も考えずに見たほうが楽という説

細かいこと考えすぎると無限ループにハマるタイプの作り方がされているので、あんまり細かいことに気にしなくてもいい気もしますね。

・ラウが崩壊していった
・ヤンのサービスシーン
・ヨンとシェンいいやつだった
・リー先生可哀相すぎる

これが分かればもういいんじゃないかと笑
それが主題ですからね。

実際、初見では1や2みたいなヒリヒリ感もなく、あれ?こんなもんか。みたいな後味だったんですよね。
しかし以外にも複雑だった。観たあとで色々と考えるタイプのスルメ映画ですね。


それにしてもシェン、もう少しなにか活躍してほしかった感はある。
すごくいい役どころなのに、作中ではあんまり何もしてない…。

1はシンプルな相関図でしたがスリリングに描ききっていたし、2は複雑な相関図をあの時間で纏めきったスピード感がすごくよかったので、それと比べるとなぁ。
3はぶっちゃけ「ラウが一人で空回りしていただけでした」的な、「無間道」のオチとしては間違いないんですけど、シリーズものとしては若干別物っぽい色味だったのでね。
ミスリードものっていうのも、別物っぽさを強調してしまっていた。

「ミスリードモノやってやろう」と思ったと言うよりは「ラウが狂っていく」表現としてオーディエンスを巻き込んでミスリードという手法が一番良いと思った、と思っておきますが。


表現としては、クールに狂っていくのがまたラウっぽくて凄くよかったです。

そしてどちらかというとヤンファンなので、サービスシーンもご馳走様でした~

インファナル・アフェアⅢ 終極無間
アンディ・ラウ (出演), アンドリュー・ラウ (監督), アラン・マック (監督, 脚本), トニー・レオン (出演)