インファナル・アフェアⅡ(無間序曲)

2023-11-06image 映画インファナル・アフェア

前作「インファナル・アフェア」の続編にして、主人公二人(やその上司たち)の過去編。

ラウ(エディソン・チャン)とヤン(ショーン・ユー)、似すぎ問題。
まあそれは置いといて。


より複雑かつ濃密な過去編

ぶっちゃけ、「どーせ前作がヒットしたから作った作品」とナメておりました。

なんじゃこりゃああ!!!
単純な「前作への経緯」じゃなかった……。めちゃめちゃ濃密です。

がっつりネタバレしていますので未視聴の方は読まないほうがいいです。

ウォン警視とサム、前作では「因縁のある刑事とマフィア」というよくある二人にしか見えなかったけど、因縁どころかもはや「良き友」レベルでいい感じだった…。

そして前作では見えなかった新たな関係が色々と出てきます。
あまりにややこしいので整理していきます。

ヤン

彼はマフィア(クワン)の私生児であり、クワン亡き後ンガイ家を継いだ息子の「ハウ」と異母兄弟。

前作ではどういう経緯で警察学校を退学扱いになったのかや、どうやってマフィアの中で上り詰めたのかの経緯は全く不明でしたが、「身内が犯罪者の人間は警官にはなれない」と退学になりそうだったところを、ウォン警視が彼を見込んで「俺の手先になれ」的な感じで潜入捜査官としてのポジションを与える。

「善人でありたい」ことから父親の性を伏せて警官を目指した(しかも警察学校では主席だった)…
でも、まだ警察学校生だった頃に車を盗もうとしたヤンキー(キョン)をボッコボコに殴る等(そのあとムショで再会して笑われてまたボコボコにするw)、ちょっと手が早い上にやりすぎちゃうという、マフィアとしての素質はあったことが伺える。なるほどぉ。

トニー・レオンは悪役感がほとんどなかったから「根っからのカタギだけど、頑張ってマフィアのフリをしているヤン」という感じの演技でしたが、「もともとマフィアの血筋で、その資質のある自分自身も許せないし、絶対に気質として善を貫いてやる」みたいな気持ちがあったわけですね。
インファナル・アフェアでも序盤「何度傷害罪で捕まれば気が済むんだ」みたいな会話をウォン警視としているのですが、そういうシーンが具体的には無かったのでいい人感がね…。

そして前作でも示唆があったようにヤンはこの頃彼女がいたわけだけど、その彼女が「あなたみたいになってほしくないから子供を堕ろした」と嘘をつく…。前作で「5歳になる子供がいるのよ」(本当は6歳)の彼女ですね。

基本的に真顔で無口なんだけど、「ムショにいると親父(クワン)の葬式にさえいけない」とワンワン泣くキョンを宥めてあげたり(そのキョンをムショにブチ込んだのは車の窃盗で通報したヤンなんだけどw)、ラストシーンで異母兄であるハウが死ぬ際に真っ先に駆けつけて抱きしめるなど、根っからの優しさが溢れちゃうの愛しい。
終盤でウォン警視に「ハウの資料を纏めたけど順番は崩すなよ」と軽口を叩くあたり、ヤンって感じになってきてよきでした。この4年後がインファナル・アフェアです。


ラウ

ラウはまさかの、「サムの妻であるマリーに惚れていた」という仰天設定。

もともとサムがチンピラだった時代からのサムの手下ではあったんだけど、そのサムの妻「マリー」に惚れていたから、マリーの極秘の指示でクワンを殺害。(クワンは黒社会においてサムより随分エラかったので、マリー的にはサムを押し上げるために殺した のだと思われます)

そしてサムが半分冗談で「警察に潜入しろ」というのをあっさり許諾。
これは私の勝手な理解ですが、警察潜入というのも「マリーの側に居たいから、サムから必要不可欠な人物である必要があるし、警察という立場を利用してマリーを守れることもある」という感じで受けたのかなと。
そういう意味ではラウは別に「善人になりたい」とか「善人の素質がある」みたいな感じは全く無いです。
この頃は正直マリーのことしか考えてなかったという感じですね。

そして最後、自分の彼女となる「マリー」と出会うところでニヤリとして終わるのですが、このニヤリ、やっとインファナル・アフェアのラウっていう感じになります。
どうしようもない過去を経て、開き直ったラウ警官誕生の瞬間。いいね。

しかも、このエピソードによって「ラウはそもそもサムを慕っているわけではない」という事実が分かるわけですよ。
マリーがいたからサムに従って来てたけど、マリーは死んだ。でも、サムがチンピラの情報を横流ししてくれていたお陰で警察内でも実績を上げてメキメキ昇進していたから、「何の矜持もなく」サムに情報を横流ししていただけ。
そして「インファナル・アフェア」で善人になりたいという気持ちが芽生え始める…。


サム

ねぇぇ~~~~まじなんなの!?
サム、めっちゃ良いやつっぽい感じです。

ちゃんと前作では「根っこは悪いやつ」感があったのですが、本作では「いる場所が悪かっただけで、実際に人情を大事にする結構いいやつ」キャラです。悪事は平気で行うけど、陽気だし人情は踏み抜かない、みたいなまさにヤンキーって感じ。エリック・ツァン演技うますぎない?
冒頭の若きウォンとのシーンでも「クワンには世話になったから彼を裏切ってボスになるなんて絶対にできない」みたいなことを言うし、かなり終盤までずっとそういう感じです。

タイに取引に行っている最中、ハウにお掃除されそうになったところで、妻のマリーから「急いで帰ってきて。ハウに殺される、なぜなら私がクワンを殺した事がバレたから」と衝撃告白され、おそらくここでマリーのことは切ると決意したのでしょうけど、ここでは殺されず間一髪となる。

だけどタイの取引パートナには「信じている」と言って銃を渡し、結局打たれて死にかける。
でも死ななかった!! ことでそのタイ人とは「親友」となるわけですね。これが「インファナル・アフェア」で再会するタイ人の麻薬の取引パートナでもあるということだ。スゴイ運命。

そして終盤、証拠を掴んでハウを逮捕したい警察(ウォン)と、自分を殺そうとしたハウのもとに戻るわけには行かないサムは、2年後にハウの逮捕のために証言をするという形で手を組むことになりますが、結果的にハウに呼び出されて脅され(自分が殺される覚悟で出向いた)、ウォン警視がハウをぶっ殺す結果となります…。
ウォン警視は「サムは殺されてほしくない」と咄嗟にハウを殺したんですよねぇ。
まあ、ハウはサムに銃突きつけて脅し?ぽくなっていたわけなので、あれは警察としてはセーフなのかな?

そして最後まで「自分が殺されれば丸くおさまったのに」とハウ(ンガイ家)に楯突くつもりのなかったサム、ウォン警視とも敵対関係にはならなさそうなのに。
最後の最後で、サムの今後の麻薬の大口取引相手となる「タイ人の親友」が「パートナーとしてこれからやっていくにあたり、ハウの家族は邪魔になるから殺しとくね」とぶっ殺してくれてしまったために、ウォン警視の次のターゲットはサムになってしまう・・・。

というわけで、サムは別に心変わりとかしたわけじゃなく昔っからただのチンピラなんだけど、色々なことが重なって「街を牛耳るマフィア」に成長していきます、というのがしっかり描かれたのでした…。


ウォン警視

ほぼ本作の主人公です。これぞ警察!って感じの人。
「悪を根絶するには多少汚い手も必要だ」という人ではあるけど、基本的には正攻法の人であり別に悪人ではないです。

ウォン警視を語るうえで外せないのは「ルク警視」の存在。ウォン警視のいわば親友でありライバルです。
「どっちが現場の指揮を執るか」をトランプで決める間柄。
ウォン警視がヤンを極秘で潜入捜査させているのと同じく、ルク警視もやっぱり極秘で潜入捜査官(ロ・ガイ)を手配していた。
似た者同士でライバルですからね。この潜入捜査官はハウに殺されてしまうんですけど…。

さて、実はマリーを使ってクワンを殺したのはウォン警視です。
マリーも潜入捜査官か?と一瞬思いましたが、それは違ったようです。マリーはちゃんとサムの妻であることに矜持を持っていたようなので(だから最後ラウに流れなかった)、「サムを押し上げるためにクワンを殺す」ということでウォン警視と利害が一致して手を組んだのだと思われます。
でも体の関係は・・・・・一応あったっぽいですよねぇ。サムが「お前の男」と浮気を知っていたっぽい発言をしているので、相手はともかくそういうのをサムは分かっていたんでしょう(「お前の男」はラウのことをさしていたとも取れるんだけど)。

結局、マリーとの密会をハウに撮られて「殺人の教唆」で失職しかけるのですが、落ち込んだウォン警視を励ましに来たルク警視は、「トランプがイカサマであることをずっと知りながらつきあってやってたんだ」と告白して連れ戻そうとするも、先に車に乗り込んでエンジンをかけたところで爆破して死んでしまう…。。。
その車はウォン警視のものだったわけで、ハウの手先がウォン警視を殺そうとして仕掛けたやつに、ルク警視が殺されてしまうんですよね、、、、
ウォン警視は「親友のためにも」、あとには引けなくなったというわけです。

さらに最後、サムを殺そうとしたハウを撃ち殺し、しかしサムとは因縁の相手となっていく…。
罪深すぎる役どころです…。


ンガイ・ハウ

この人が本作での一番の悪役ですかね。愉快的に悪事を働く感じではなくこの人も強かな人です。
ヤンの異母兄で、まさに「インテリイケメン」風の、オールバック(角刈り?)と銀縁メガネと白スーツが似合う感じのマフィア。

序盤、街を牛耳っていた父親「クワン」がラウに殺された後、4人の有力な手下たちにナメられる展開となりますが、ガシッと脅してシッカリ従えさせます。このへんはまさにマフィア映画というかんじで、ハウが優秀な辣腕マフィアだということを示すイケイケシーンですね。父の死を悼み、そして家族もできるだけカタギであろうとしますが、シマを受け継いだ者として黒社会では十分に活躍し、その中で異母兄弟であるヤンを引き入れていきます。

数年後、4人の部下は使い物にならんということで「切り落とし」、サムも殺して、見込んだヤンに裏取引を任せて、政治の世界、つまり表社会に躍り出ようとする。(どうしてサムだけわざわざタイに向かわせて殺そうとしたのかはイマイチ謎ですが)

結局サムを殺しそこねて、最後はサムに脅されてウォンに撃ち殺され、挙げ句、死ぬ間際に駆け寄ってきたヤンの発信機に気付いてヤンが裏切り者だったということを知りながら死ぬ…。そしてハワイの家族もタイ人に殺される。
結局この辺のマフィアは一掃されて、サムが躍り出る場を作り上げてしまったということですね。

この人も怪演でしたね。まったく善人じゃないんだけど、善人ズラの似合う優秀なマフィアという難しい役どころをビシッと演じきったお陰で作品がかなり緊迫感が出ました。


マリー

いや~~、このシリーズに出てくる女性ってほんとに「ご都合」感がなくてすごくよいです。

だいたいこういう映画に出てくる女性ってすぐ感情に流されて男性キャラを翻弄する役回りというか、物事をややこしくしたり抑揚をつけるためだけに出される「一筋縄ではいかないツンデレ」みたいな事が多いと思うんですが、この人は他のキャラと同様に強かで重要人物です。

「一番はサムだけど、自分に惚れているラウを利用し、ウォン警視ともつながる」というこの曲者感ヤバい。

それをいっときの感情に流されてやっちゃったわ!みたいな感じではなく、「ちゃんとやってる」んですよね。
サムに対して極端なデレデレというわけでもないし(そういう娼婦ポジありがち)、つまりすごくリアリティのある感じなのです。
「4年間ゆっくり眠れない」とか葛藤や悩む描写はたくさんあって、変にヒステリックだったり感情的だったりする必要はないんですよね。このへんの描写は、マリーに限らずめちゃくちゃ上手いです。

最後の最後、おそらくラウはハウの手下が彼女を殺しに来ることを分かっていたから(あるいはラウ自身がハウの手下に情報を流した可能性もある)、「俺の救いの手を取るならこれが最後だぞ」という意味で電話したのだと思うのですが、おそらくそれを分かりながらも、マリーは電話に出ない(≒サムを最後まで信じた)のですよね。。
まあ、マリー的にはサムを押し上げるつもりでクワンを殺したのかもしれないけど、サムはクワンに深い恩義を感じていたわけなので、万が一空港で殺されなかったとしてもサムは許さなかったかもしれませんが。


その他

ルク警視
完全にウォン警視のライバル役。
ウォン警視よりも早く昇進したし、先に潜入捜査官送り込んでたし、ウォン警視を慰めて引き戻そうとしてくれたし、トランプのイカサマに付き合ってやってたし、とにかく「優秀かつ陽気でいい人」です。
優秀で、なんだかんだ主人公を助けてくれるんだけど、悲劇的な死を遂げる、というまさにテンプレの…。
ウォン警視が仕事一筋頑固親父的な不器用系のキャラなので、ライバル役としては完璧なキャラですね。ちょっと三枚目っていうのもまたいい。
「なぜか勝てないけど憎めない、一枚上手の永遠のライバル」みたいな。ありがち。なのに嫌味がなくて完璧です。


ロ・ガイ潜入捜査官
ルク警視の部下で、クワンの手下としてヤンより早く潜入していた。
どうもよく映るなぁと思っていたら、やっぱりだったか。
結構中盤で「デカだな」とバレて(どうしてバレたのかは不明)ハウに直接殺されてしまうのですが、その直前にこともなげにハウの命令に従って手下を撃ち殺したりしているので、まあ相当場馴れしていますね。。。
ルク警視とどういう間柄だったのか、こちらも気になるところですが、この人が途中までいてくれたお陰でヤンが疑われずに済んだということもありそうですよね。
他に気になったことといえば、ロ・ガイはヤンが潜入捜査官だったことに気付いていたのかどうか?ですかね。臭うなぁとは思っていたっぽいですよね。ちょっと思わせぶりな視線のシーンがある。
ヤン側からは、警察学校時代にハウが「クワンが殺されたことを子供全員に伝えて回っている」ときに、イップ校長とルク警視が来てそれで私生児だとバレることになるんだけど、その時伝えに来ているのがロ・ガイで、ルク警視が「ロ・ガイ」って声をかけているんだよねぇ。「なんで知ってるねん?」ってならないんかね。


キョン
インファナル・アフェアでヤンを逃してくれた手先仲間。最初からサムの子分(クワンを父と慕っている)です。
まさかのヤンの警察学校時代にヤンにボッコボコにされていたり、その直後にヤンが退学になってムショに入った時に同室になってバカ笑いして殴られたりw なにこの因縁ww
バカなんだけど、殺しなんて出来ない、根はいい単純バカ。
インファナル・アフェアではヤンは自分の身を守るために「キョンが潜入捜査官だったので始末した」と疑いをなすりつけようとしますけど(すごく嘘っぽいから信じられてないと思うけど)、ヤンもこいつに限ってはある程度安心して接することが出来たんじゃないでしょうか。単純バカでいいやつだから。




構成と演出

インファナル・アフェアも100分でよくアレを表現し切ったな、と関心してましたが、今回もこの複雑な設定や微妙な心理状況をかなり細切れのシーンの連続なのに表現できている事自体にびっくりです。
設定がもりもり過ぎて「えへぇ?!ww」といいながら観てました。

ヤンとラウの過去編という感じだと思っていたのに、どっちかというとサムとウォンの過去なんですよね。
ヤンとラウはそこまで出てこないというか、お互いにまだ下っ端なので何もしない立場というのもある。

ウォンの過去にルク警視というライバルがいたというのも深みが出て流石だなと思いましたし、サムとラウの関係がただの師弟関係だけじゃないというのも面白い、さらにヤンが大物マフィアの私生児だったという設定はもう・・・完璧です!!!

インファナル・アフェアがヒットしたから続編を作りたくて、と絶対あとから作った設定だと思うのですが、こんなに完璧な設定ある?

そしてなにより、この複雑で興味深い設定、おそらく他の監督が撮ったらすごく忙しないシーンばかりになると思うんです。

創作って「分かりやすく極端に感情やキャラクターを表現するべき」みたいなのが基本だと思うのですが、この監督はさすがですよ。
目線とか無言のシーンだけでほとんど表現できてしまうので無駄な台詞が全然ないし、変に感情的になるシーンをほとんど作ってない。これすごいよね。


というわけで、まさかの展開に色々と感激しっぱなしでした。

いや~よかった。

インファナル・アフェア II 無間序曲
エディソン・チャン (出演), ショーン・ユー (出演), アンドリュー・ラウ (監督), アラン・マック (監督)