鑑定士と顔のない依頼人(The Best Offer)

2020-09-15邦題が残念, 洋画

おすすめされたので。

特に良い作品とは思ってないのですが、せっかくなのでレビュー。
ネタバレの核心は書きませんが、まぁ想像がついてしまう内容です。


善人は出てきません。

あらすじは、美術品(特に絵画)の鑑定士として名を馳せている主人公に、奇妙な依頼が舞い込んできて───。というもの。

序盤から主人公は完全なる善人ではないことが分かるので、もうそれだけでほとんどネタバレです。

私は友人に「絶対いいから!」とpushされて観たのですが、そのpushの仕方と主人公の「完全な善人ではない」設定のおかげで、序盤で「ミスリード系」だと分かってしまったので、「最後にびっくり!」みたいなのはなかったんです。冷めてるねぇw

ついでに、私は日本語タイトルもややネタバレしてると思ってます…。
英題は「The best offer」(イタリア語原題「La migliore offerta」の直訳)で、もしこれを日本語でも直訳風にして「ヴァージルの最高の鑑定依頼」とか、せめて「最後のベストオファー」とでもしておけば、まだポジティブな映画なのかなとミスリードされていた可能性があったのですが、「顔のない依頼人」って、かなりミステリ風の印象を与えませんか?
最初から何かを疑うような気持ちになるというか、純粋にピースフルでハピネスな映画を観るんだわ!という気分ではとてもじゃないですが観れませんよ。たぶん…。
まあ、私も何の前情報も無ければ主人公と一緒にミスリードされていたかもしれないですけどね。


評価はかなり分かれるようです。
そもそもミスリードが「誰かの善意の結果」ではなく、「誰かが誰かを貶めるため」のものなので、それが明かされたところで基本的には誰もハッピーな気持ちにはなりません。
真実が明かされたこと自体に喜ぶのはミステリものの探偵くらいでしょう…。
(…主人公がイケメン探偵で、ヴァージルが「依頼人がちょっと変だから調査して欲しい」と「顔のない依頼人の調査」を依頼したのならミステリとして割と良いのでは…?笑)


ただ、これは「どんでん返し自体が面白い」タイプの映画というより、おそらく作中でも表現があったように「偽物(に見えるもの)の中に、真実の愛は宿らないのか?」といった、もう1段階考えさせるところまでが主題なのだと思われます。

高い評価をしている方は、「どんでん返しされたのが痛快だった」派と、「実は真実の愛があったのではないか?と思わせる描写がすばらしい」派の2種類いると推測しています。


「真実の愛の有無」

中盤はかなり真面目な恋愛映画風に書かれています。
そのあたりで「顔のない依頼人」というタイトルの意味が一応は分かるようになっているので、ミスリードされていれば「顔のない依頼人」というタイトルは逆に恋愛としての要素を煽っただけに見えたかもしれません。

どうも人によって「真実の愛があったのかなかったのか」は意見が割れるようなのですが、私は「真実の愛があった」派です。
あ、ただ、ここで私の言う真実の愛というのは、ロミオとジュリエットみたいな、結末自体を恋愛感情で捻じ曲げてしまうような情熱的なものじゃなくて、「目の前に居たら損得なしに何かをしてあげたいと思える、人間としての愛情」です。
ロミジュリみたいな熱い恋愛感情は、当然なかったと私も解釈してますよ。

もちろん、作中ではミスリードさせるためにまさに真実っぽく描かれているわけで、「だからそれは真実に見せかけるための演出でしょ」とも言えるのですが、私はずっと疑って観ていたので、逆に「ミスリードしてる側から見ると、わざわざ不要なことまでしてね?」という感じに思ってしまったわけです。もう十分ミスリードできているのに、さらにプラスアルファしてるように見える。

そういう意味では、テーマ自体は嫌いじゃないです。

それと、ヴァージル役のジェフリー・ラッシュを筆頭に演技は文句なしです。
ミスリードの世界を完璧に演っていると思う。こういうタイプの映画は演技が棒だと死ぬよね。


なにあのクソロボット

唯一、駄作感を助長してしまったのがあのロボット。

いやね、最後はあのチープ感が大事なのは分かるんですけど、ストーリー上・演出上の「チープ」と、あれはちょっと違うのでは。。

まあ、スゴイものができそうに見せかけて、ただのゴミかよとがっかりさせられた、という意味では、ここに関しては私はちゃんとミスリードされたんでしょうね。

しかしあれがものすごい脱力感を持っていてですね…。
もう少しあれがマシだったら、本筋の方のミスリードに集中して打ちのめされることもできるのに、全てを押し流すがっかり感…。


でも、これ最初に書いたように、「善人は出てこない」ので、特に悲しくも悔しくもないんですよw
極悪人ではないんですけど、少なくとも善人ではないですよねぇ、という人たちしか出てこないから。

なので、観終わった後に「私は何をみせられたんだ?」みたいな気持ちになります笑

突っ込みどころが多いので、観た人と一緒になってやんややんや言えるし、話題にしやすい映画だなーとは思います。

おすすめはしません!笑