川上 量生 / 鈴木さんにも分かるネットの未来

2015-07-18お気に入り・おすすめ, IT, social 社会

Amazon売り切れ!と、かどんごさんのTLがざわざわしていたので、絶対売り切れてないと思われる近所の本屋にいったらあっさり見つかり即購入。

ちなみに私は川上さんの言う「存在感の問題」で、いまだに基本的に生書籍派(電子書籍をあまり読まない)です。


ちょっとクセがあるけど、あと10年以上生きる予定があるなら読むべき

川上さんはネット時代の「端境期の世代」であるし、技術者でもあるし凄腕経営者でもあり、私にとってはネットの未来とかビジネスを語ってもらうなんて勿体無いくらいのお方です。
この人に語らせたら、どこぞの「自称専門家」よりはよっぽど有益な展望が聞けるということで、期待通りの内容でした。

ただ、正直、ブラウザとOSとインターネットとネイティブアプリの違いもよくわかっていない友人にこの本を貸したところで、要点を理解してもらえるのか微妙だなあと思ってしまいました。
まあ、技術について理解できなくても、ポイントは繰り返し述べてくれているので、分かるかな。

おそらく、向こう10年くらいの未来には川上さんの言うとおりになるものがいくつかあるはずで、仮にそうならなかったとしても、「よく分かってないけど技術やインターネットの進歩が素敵な未来を実現してくれるだろう」と漠然と思っている人が冷静に物事見つめなおすことのできるいい本だと思います。
というわけで、あと10年以上生きる予定がある方にはおすすめです。

「ネット鎖国論」

「はじめに」で、最初はネット鎖国論というタイトルにするつもりだったと書いてあり、本の内容は、たしかに「ネット鎖国論」に近いです。

「希望的な意味合いでのグローバル化という言葉が貧困と格差拡大の元凶と認識されるようになってきた」と前置きし、

いつまでも関税がどうだとか、モノと資本の移動ばっかりに囚われた議論をしている場合ではありません。
いま、ネットによって社会システムがリアルな世界から電子の世界へ移動しつつあり、そこの大部分は国家の統制が及ばない場所になりつつあることを認識すべきです。
ということで、基本姿勢はこんな感じです。

それから「IT業界の人間も本当はよく分かってない」としつつ、いろいろと都合がいいので「これからはITです」とビジネスをしている人間が多いことも指摘。

ネット業界の人がいろいろ未来についてうんちくを語る際に、一般世間の人がどことなくうさんくささを感じるのは、直感としてはとても正しいと思います。
ビジネス的なご都合主義が未来への理想主義に装いを変えて、本来はイデオロギー的な主張にすぎないことが、科学的な真実であるとして喧伝されています。
まあご本人も"ネット業界の人"だと思うけど。
いい意味で批判的というか冷静に話が展開していくし、ご本人がビジネスするために都合よく原稿書いている感じもしないので、すくなくとも「Web2.0」とか「これからはクラウド」に感じた胡散臭さは感じないと思います。

前半~中盤の「ネット住民とはなにか」 から 「グローバルプラットフォームと国家」

それから最後の
「インターネットが生み出す貨幣」
「リアルとネット」

は、まさに「ネット鎖国論」。
そもそもネット業界ってどういう起こりだったのか?から、業界全体に非常に大きな影響があると思う「コンテンツとプラットフォーム」の話。
これは全員読んでおいて損ないです。


後半の
「機会が棲むネット」
「電子書籍の未来」
「テレビの未来」
「機械知性と集合知」
「ネットが生み出すコンテンツ」

あたりは、「ネット鎖国論」というよりは、「多くの人が気になっているけどいまいちまともな議論や見解を見てない」テーマに関してばっさばっさ述べる箇所です。
現状理解が進んでためになるし、「川上さんが言う通りになりそうだなあ」とすごく感じる箇所。


それでは以下、気になったところまとめ。


ネット原住民

ネット原住民たちによるあくまで趣味の世界だったネットが変質したのは…(中略)…旧大陸である現実世界から新大陸のネット世界へ、ビジネスマンたちがやってきたのです。
彼らは、新大陸は宝の山だとかいって、わがもの顔で振る舞いはじめ、旧大陸にあったものを次々と新大陸に建設します。
まさにここが、Webネイティブにも、ネットに疎い50代にも、ネット文化がわかりにくいポイントかと。

ちょうど私は、中学生の時にPHSが流行り、電話線でチャットをし、学校ではよく分かって無さそうな先生が「ネットリテラシー」の授業をしていたという世代。
業界柄というか趣味柄?「ネットに住んでいる」人たちの存在もよく理解できるし、「昔はアマチュア無線みたいな一体感があってよかった」的な懐古的な意見もそれなりに認識してたけど、リアルで生きづらい人が逃げたユートピアを壊した、みたいな直接的な説明は聞いたことなかった。
そんな極端な説明じゃなくても、よく考えたら分かりそうなものだけど、この極端な説明だから非常にわかりやすいです。

そのときにネット住民の先進国である日本が得た経験は価値の高いものになるのではないか、いや、そうなるように日本は努力するべきだと、ぼくは思っているのです。
ネット原住民についていろいろ述べた後、こうやって締めるところが川上さんのイケメンなところです。


…(前略)…この新世界から生み出される知識だったり環境をユーザひとりひとりが平等かつ無償で享受できるべきであるという、少し共産主義的にも見える理想のようなものを持っている人が多いのです。
ネットの世界で新しい概念を示す用語にイデオロギー的なニュアンスが入り込む要因のひとつには、このネット文化に伝統的に紐付いている理想主義があります。
私もなんとなく漠然と、「平等かつ無償で享受できるべきであるという」感覚を持っていたので、「うーん確かにこれは宗教的な信念と言われても否定できないかも。」と思ったり。
SF趣味なので、近未来をすっ飛ばして「電子化した人間」だとか「脳から直接ネットにアクセス」みたいな極端な妄想に関してはそれなりに理解あるし、むしろそういう未来に実際の人間と人間社会はどう向かっていくんだろうという厨二病感覚が好きなのですが
その前に「そもそもなんでそんな根拠もなくネット信仰してんの?」と冷水ぶっかけられてる感じですね。
もうちょっと真面目にネットとネットビジネス見てみろよと。。

マスメディアよりもソーシャルメディアの影響が強いネットメディアにおけるプロモーションの最終目標とは、こういういろいろな切り口で分けられるクラスタ内で共通の意見をつくりだせるかどうかにあるのです。
たしかに!
改めて言われてみるとそういうことだ。


コンテンツのありかた

続けてコンテンツについて3連発。

(前略)…デジタルコンテンツというプラットフォームが普及するためのコストを払うべきなのはプラットフォームを握っているインターネット業界側であって、コンテンツ側に低価格戦略を無理強いすることでプラットフォーム普及のための宣伝費を肩代わりさせるような理屈はおかしいのです。
顧客があるコンテンツの価格がどれぐらいが適正と思うかどうかは、売り手からすると、"教育"だったり"刷り込み"の問題だということです。
コンテンツを無料でもいいから配布することでプロモーションをするという戦略は、まずコンテンツへの依存をつくるという意味では正しいのです。
このへんは、コンテンツ業界の人は必読と思われます。

そういえば、ネットの素人漫画を昔からちょくちょく読んでいる私は、いろいろと思う所あり。

「おそらくファンから"早く続きを書け"とかいろいろ言われて嫌になってサイトを閉鎖してしまう人」とか、
「出版社から声が掛かってプロデビューするので漫画の公開やめます」っていう書き手さんもよく見てきた。(その後売れているのかどうかは知らない。)
「プロデビューしまーすw」と喜んでプロデビューしたはずの書き手さんが数カ月後に雑誌連載が不自然に止まってサイトの更新も止まったみたいなオソロシイ例もあるw

最近でも安定して描いている人は「掲載しないかとよくネットメディアから声がかかるんだけど、(色んな意味で都合が悪いので)しません」と、自サイトでのみ公開するスタンスだったり、もし物販化するなら自分で同人誌として出版しますみたいな書き手さんが多いかな?

おそらく相当いろんな話があっただろうと思われる、かの有名な「堀宮」のHEROさんに関しては、
「プラットフォーム側に搾取されないように、独自の物販サイトを作った(多分)」という、コンテンツ側として正解なやり方をしていると思われます。

さすがだなあ。
コンテンツが強いとそれでいいわけですよね。


コンテンツの審査はプラットフォームがコンテンツ側に対して優位に立ち、さまざまな影響力を行使するための決定的な武器になるのです。
こっちはプラットフォーム側が強力な権力を持っているという話。
今は莫大な数の人たちがアクセスするグーグルの検索結果画面や、iTunes Store、Amazonにコンテンツを出すことが至上命題みたいに無条件に思うことが多いけど、それってコンテンツ側からするとかなりやばいよよく考えて、と。

そういえばちょうど先日、Amazonのレビューが(おそらく機械的なチェックに)弾かれたというのが話題になってて、これはまさに、川上さんが言う「プラットフォームの審査(しかも機械)にお伺いを立てる」状況そのものかなあと。

そしてコンテンツはそういうのを理解した上で搾取されないようにやっていくべきである、という話の流れで、今後を示唆するイケメン発言はこちらです。

マスターアップしたものをコピーしてあとはなにも変化しないというような静的なコンテンツではなく、中身がどんどん変わっていく動的なコンテンツというものがネット時代に売れるコンテンツのキーワードとなるでしょう。
まさにいまのソシャゲですね。

昔、いくつか社会勉強のつもりでやってみたソシャゲがクソゲーすぎて、頭悪くなりそうだと即やめたのだけど、
最近になってもう一度勉強がてらいくつかダウンロードしてみたら、なかなか面白くてその内の一つは普通にプレイを続けてます。

結局のところ課金してガチャをするのが一番近道である構造は変わらないっぽいので、
重課金者を優遇しすぎるとゲーム全体のバランスが悪くなり、結果的に旨味が少ないのだね?おそらく。
無課金者含め如何にユーザ数を減らさずに、課金を維持できるか、に対してものすごくいろいろな仕組みが用意されていて、完全無課金の私でも数ヶ月そこそこはまった(そろそろ流石に飽きてきたけど)。
2週間ごとにいろんなイベントが開催されるし、ガチャの内容も適度に更新されるし、ゲームバランス調整とかもちょくちょくあって、格差が極端に広がって低課金層がやる気を削がれないように、課金しなくても楽しめる工夫もたくさんされている。

これは「ケータイゲームなんて云々」と、よく知りもしないのに敬遠している人は一度その偏見を拭って学ぶべきところは学んだほうがよいのではと思います。


またアーティストの売り出しを手がけるプロデューサーなどの仕事には、ネットでファンとのコミュニケーションをおこなう能力が今後は不可欠になっていくのだと思います。すべてのアーティストがファンとのコミュニケーションをできるわけがありませんから、分業型が今後は増えていくでしょう。
なるほど「中の人」が増えていくわけですね!
芸能人とかが本人が自己ブランディングも含めてツイッターやインスタやるのはもはや当たり前になってきてますが、企業アカウントとして「中の人」で盛り上がっているのはまさにこれですよね。



そのほか

あるビジネスで他社と分業する場合には、自分がやる仕事については独占で、他社が担当する部分については「オープン」になっていて競争がある、こういう状態が一番儲かるのです。
これ言われてみれば当たり前っぽく聞こえるのですが、マイクロソフト、アップル、グーグル、IBMのやり方が出てきて、なるほどなあと思っちゃいます。
まさにウェブネイティブや、ネットや投資市場に疎い還暦周辺の方々は知っておくべきところかと。
「オープンはすばらしい(し、今後もオープンが勝つ)」みたいに漠然と思ってる人には、「おいおいこのネイティブアプリの流行をどう見るの?」とこちらも冷静に突っ込む感じです。
「オープン」=「基本プレイ無料」 みたいな理解になってしまっている場合、「ネイティブアプリ?何のこと?」状態になりますよね、これ。。


iPhoneやAndroidのようなスマートフォンを、なぜ、…(中略)…日本がつくることができなかったのでしょうか。本当はつくれたはずなのです。つくりたくてもつくらせてもらえなかったというのが正しいのです。
お、これは「自称専門家」の意見が割れそうなテーマですが、川上さんによれば、「携帯電話をつくるうえでの日本国内だけにあったローカルルール」のせいなのだそうです。
規制は影響力が強く、それがないから素晴らしいものが生み出されるという事実もあるけど、日本人の日本人による日本人のためのサービスであっても、税金もうまく取れないかもしれない現実が目の前に来ているわけなので、もうちょっとネット上の国境という問題を政府は認識しないと。

それと「NDA」の話。
サイトの利用規約もそうだけど、みんなプラットフォーム側に「NDA」結んでることで相当立場弱くなってるよ気付いてる? という話もありました。
このへんの話は、かどんごさんのTLでもちょくちょく話題になっていて興味深い箇所です。

短期的に見ると、電子書籍の時代には本屋は不要に見えますが、長期的に見ると書店がなくなることにより、電子書籍を含めた書籍全体の市場が縮小していく可能性があります。
本屋読んでるぅー!?

したがって、ネットが発達した現在においてもネットでの最大の話題は、常にテレビが提供しているのです。
テレビ番組はいずれ放送波ではなくインターネット経由で配信される時代がやってきます。いずれ一緒になるのです。だったら、どこかの時点でなんらかの計算式でネットでの露出回数もGRPに組み込んでテレビCMを一緒に販売するようにすべきです。
テレビ局読んでるー!?
テレビ局は「一斉に大勢に人間に同じコンテンツを提供できる」という強みがあるので、それを十分に認識の上やっていかねばとのことです。
なるほどなあ。


それからビットコインについては、貨幣としての価値云々という評価方法ではなく、そもそもの仕組みと「中立である」というイデオロギーの説明があり、仕組みの限界があるために「中立」というイデオロギーを自ら覆すことになるか、投機対象、そしてアップルやグーグルの足場になる程度だろうとのご指摘。

うーん。なるほど。

比較的まともなものでいうとビットコインを経由した海外への送金などは、意味がある場合もあるかもしれません。他に便利そうな使用目的としては、ビットコインの取引の匿名性が高く追跡が難しいことを利用した、違法な商品の売買や、マネーロンダリングくらいしか思いつきません。
ぼくがあるとき米国のベンチャー投資家と話したときに、「日本の上場を目指すITベンチャーは、ノウハウとテクニックだけで上場しようとしている会社ばかりだ。(中略)」と言ってみたことがあるのですが、「米国では九九%がそういう会社だよ」と彼から笑われました。
IT業界の「資金調達」「時価総額」っていうのもなんだか耳慣れてしまってますが、そもそも「そうなるに違いない!」とみんなを信じさせて莫大な資金を集めるというやり方自体が、とても投機的だし、確かによく考えたらIT業界独特なんだなと気付きました。
バイオマスエネルギーの会社がドーンと資金調達、っていうIT業界じゃないのもあるけど、たしかにIT業界ではそれが目指すべきところであるみたいな風潮はありそう。



長くなってしまった!

勉強になりました。

あたりまえだけど川上さんの言うことをどの辺まで理解して、どこからどこまでを信じたり同意するのかは人によると思いますが
「ニコニコつくった人がネット業界全般について語ってる」というだけで十分読み応えありかと思います。