領内 修 / 名物・金庫番が解き明かす 3つの近未来

IT, money お金, social 社会

タイトルの若干の胡散臭さに警戒しつつも、前書きに興味を持って購入。

面白かった!


経験豊富なおじさまに「金融」「政治」「IT」のこれからについて教えてもらえる

著者の領内さんという方は、元銀行員で、現在SCREENホールディングスという会社の副会長とのこと。
1951年生まれということは私の両親とほぼ同世代、そろそろ経験を活かしてどっしりと会社や世の中をバランスしていってくださる「頼れる世代」なわけですが、まさにそういうおじさまに色々とご教示してしてもらうという感じで読めます。
まあ、私が20代だからなんですけど。

でもおそらくある程度人生経験のある方でも、頭の整理になったり、共感したり、なるほどなと思うところがあったりと、勉強になる本と思われます。

最後の指揮者の下りは趣味まじりすぎててちょっと笑いましたけどねw

量の割には読みやすく、さくさく読めるので暇つぶしにおすすめ。

ざくっとまとめ

まず、大きく分けて

「金融」パート
「仮想現実(IT)」パート
「組織とリーダー」パート

と、三部になっています。
内容をざっくりまとめると、以下のような感じ。

第Ⅰ部 金融パート:
特にリーマン・ショックから金融危機の実態を説明する。
金融商品の説明だけでなく、人の強欲や政治のあり方についても考えさせられる、さすが元銀行員というパート。
知らないことが多く勉強になる。

第Ⅱ部 仮想現実パート:
初音ミクやビットコインをキィにして、IT業界の「オープン」の概念や、デジタルがリアルと融合していく未来と勢いを独特な視点で説明。
自身がWebネイティブかつIT業界の人間なので、「そうかなぁ?」という箇所も少々ありつつも、「こういう立場の人にはこういうふうに見えているのか」と興味深かったパート。
ビットコインの評価に関しては知らなかったので勉強になった。

第Ⅲ部 組織とリーダーパート:
ピラミッド型や、オーケストラ型の利点と欠点などを説明しつつ、今後は蜂の巣型という考え方で組織運営いていくのがよいのではというパート。
さすが「音楽趣味」、これまでの名指揮者を挙げて「リーダー」について考えさせるという部分は珍しく面白い。


第Ⅰ部 人がもつ強欲と戦え

さて、やっぱり今後の金融や政治についてなど、ご本人の一番得意とするであろう(?)第Ⅰ部は、私が知らないことばかりなのもあり、非常に面白かったです。

返せそうもない低所得者層に向けてサブプライムローンを売りつけ、返せなくてリーマン・ショックを引き起こした、、、っていうばっくりの流れは、字面としては知ってましたが、あんまり詳しいことは分かっておらず、、

「なぜサププライムローンを」
「誰が売ったのか?」
とか、
「なぜローン返済の滞りが金融危機に繋がったのか?」
「その時の政府や各国の動きは?」
という、背景や流れなどをわかりやすく説明してくれてます。

気になった箇所ピック。

人がもつ”強欲”を抑えないかぎり、次に起こるであろう過ちは、デジタルネットワーク社会のもとで、よりいっそうスピードを速め、多くの人を巻き込み、大混乱を引き起こすだろう。
世界が一緒になって、こうした強欲に歯止めをかける規制を考えないと、次の破局は近いといえる。
最後まで読むと、やっぱりこの言葉がずっしりくる。
「規制」ってネガティブな響きがあるけど、自分たちが破滅しないように必要な規制もあるのだなと思う。

不動産案件というのは、日本では地域や場所による資産価値をまずチェックするが、アメリカではキャッシュフローベースで価値を計る。
知らなかった!
このあとの「(アメリカの)景気判断は年率換算ベースの住宅着工数と年間自動車販売台数をチェックせよ」も重要ハック術かと。

CFOとしては、為替の出来高と為替レートの異常値に気づくべきある。
このあたりからCFOとしての心構え的な内容が出てきます。
「早め、長め、厚め」にキャッシュを備えておけとか、「まず、自分の担保価値はいくらかを考えた」など、ヒントがいっぱい。

国民がかわいそうだともいえるが、そんな政治家を選んだ国民が愚かだともいえる。
ウワーーーー 耳が痛いデス というか常にこの意識があるべきよねマジで。
私は選挙はほとんど行っているけど。。
ちょうど最近ギリシャで投票があって、投票のために続々と世界から帰国という記事があったけど、投票率はたしか6割前後だった。
国の生き死にに関わるような投票に、国民の6割しか参加しないってスゲェなと逆にびっくり。
すでに資金を海外に持ち出している資産家とかはどうでもいいのかもしれないけど、こんな投票で6割なら、日本の選挙で4割って仕方ない気すらしてくる。


第Ⅱ部 仮想現実が「リアル」になってきていることを理解せよ

ビットコインから始まり、初音ミク、それから3Dプリンタのネタ。

ビットコインに関しては、送金コストが殆どかからないから、中国人やロシア人が自国通貨からの資産移動という手段で使った、というくだりはなるほどなぁと。
基軸通貨になったりすることはないけど、価値交換の手段としては普通にアリなのだなあ。
かつ、「円の暴落を経験したことがない国民にとっては、ビットコインは電子情報であり金融資産ではない」というのも膝を打ちたくなる感じ。
確かに!

それから締めのあたりに、無形資産の価値をどうやって評価するのかについてのくだりがあり、やっぱりその辺は今後も課題になっていくのだろうなあと思う。

ちなみに、角ドワの川上さんの「鈴木さんにも分かるネットの未来」も併読中なのですが、そこで川上さんは「当分の間、IT業界のオープンからクローズドへの流れは止まりそうにもない」と言っているのに対し、領内さんは「今後もこのデジタル産業のオープンの流れは止まらない」的な書き方がしてあって面白かった。
「オープン」の定義は若干違う話の文脈だと思うのだけどね。
(川上さんのほうが話している階層が深い。)


第Ⅲ部 「指揮者は時間を彫刻する」

なによりこの言い回しがかっこよかったので引用。
レナード・バーンスタイン氏の言葉?だそうです。

この部で一番膝を叩いたのがここ。

アメリカの場合、「フォロワーがリーダーを選んだ」という考え方だから、フォロワーとリーダーには対等の意識がある。
思わず赤い付箋を貼ってしまいました。
なるほどそうか!

以前読んだワインバーグ氏の「スーパーエンジニアへの道」で、「あまりにも多くの人が任命によるリーダーの神話を信じている」というくだりがあったのですが、「任命による」から、「私よりすごいんでしょ?」っていう無意識の神話になるのかなあと思いました。


国境がない無法地帯では、どんなルールがあるのか、何が通用するのか、皆目わからない。
もっといえば、ネットガバナンスにはルールがないから、どのような規制を行うのかがまったく見えてこない。
つまり、ガバナンスの領域も特定できないような時代に入ったのである。
ここに関しては、やはり川上さんの「政府は規制を入れようとすると思う」っていうくだりとリンクしていて興味深いです。

ビジネスと政治って一見関係が内容に見えるけど、
ビジネスをやるにあたって政治ってものすごく大事だし、
世の中の動きをいろんな視点から見てないとダメなんだなと
当たり前のことかもしれませんが改めて感じます。


以上、とっても面白く読めました!