ジョージ・E・ヴァイラント / Aging Well 50歳までに「生き生きした老い」を準備する

2023-11-07邦題が残念, psychology 心理学, non-fiction ノンフィクション

「お金より友達」

ほぼ日の篠田さんご推薦ということで購入。

精神科医である著者が、様々な人の長年の情報や自らのインタビューから、「幸せな老いとは?」「そのためには何が必要なのだろうか?」に迫っていく内容。

50歳になるまでに、ぜひ一読しておきたいところ。
読み終わってから、「お金(の多さ)よりも、友達だ」と思うようになりました。

色々考えさせられる本です。


「老いていく」ことを見つめる

この本で一番特徴的なのは、この著作のインプットとなっている研究が、多くの研究者によって長いスパンで受け継がれているものだということ。

それから被験者数百名が、それぞれ違った特徴を持つ3つのグループになっていて、それらの比較ができるということ。

「老いていく」ことについて、誰か個人の見解を聞くだけであれば、今も昔も多くの人が発信していますが、この本はそれとは少し違う、と思って読んでよいでしょう。

ポイントは分かりやすくまとめられているので、下記に引用していきますが、
本書のエピソードを読むことでその意味合いがじっくり分かるようになると思います。


ちなみに、訳に関しては少々直訳気味の箇所が多く、正直あまり読みやすくはないです。
それから研究結果が一覧されて出てくる(図になっている)、ということがあんまりないので、全体像が掴みにくい、というのが個人的には難点でした。
でも趣旨の理解に影響はないと思います。

7つの要素

私たちの意志と努力でコントロールできる7つの重要なライフスタイルを50歳までに身につけることで、後期高齢時代も健康で幸せな人生を手に入れられる
だそうです!

これは50歳以下の方々には特に朗報。
その7つのライフスタイルとは、

1, 非喫煙者か若いころに喫煙の習慣をやめていること
2, 成熟した適応対処能力を身に着けていること
3, アルコール依存症ではないこと
4, 健康体重を維持していること
5, 安定した結婚生活を送っていること
6, 定期的に適度な運動をしていること
7, 高学歴であること


6つめまでは目新しさもなく、「身体が資本!」「健康が第一!」と言ってること変わらないじゃないか… という感じですね。

でも、全編通して、この6つが非常に大事だということを改めて感じると思います。


そして7つめは……… やっぱり学歴が全てなのね!!?・・・というわけではないようです。

高学歴は、そうでない人に比べ、自らを健康に保つための「自己管理と忍耐力」が優れている、ということらしい。
つまり、「東大を出ていないと幸せに老いることはできません」ということではなく、
「自らをコントロールできる人たちは、やはり勉強もできる方だった」ということですね。

既にこのうちの幾つかに「該当しない」人は、真面目に改善に取り組んだほうがよいし、該当していない人は自信をもって、今後もそれを続けることが大事ですね。

6つの課題

以前読んだ「子どもが育つ条件」にも書いてあったように、「発達」とは、子どもだけのものではなく、成人したおとなにも存在する課程、のようです。
「子どもが育つ条件」では、「未来を見て成長していると感じることが、幸せや充実感に繋がる」という文脈で出ててきますが。

この本では
成人は、人生の各段階を通じて、社会的範囲を広げながら生活を送る
ということで、6つの段階(発達課題と訳してある)が出てきます。

これらを順序良く熟達していくのが望ましい、ということですね。
けど、人によっては順番がバラバラなこともある。
それに、これらに熟達しない=未熟だということでもない。
ただ、幸せに老いている諸先輩方が示してくれたロードマップとして参考にしましょうと。

大事なのでそれぞれ引用します。

1, アイデンティティ

自己の価値、政治観、情熱、音楽の好みなどが自分のものであり、両親のものではないという感覚、すなわち自我意識である。
そのとき初めて、青年は「親密性」という人生の次の段階に進み、配偶者と強い心の絆を結ぶことができる。
(中略)
家族への社会的、経済的、思想的な依存、また住居面での依存から持続的に分離していることが必要なのだ。
そして強調すべきは、そのような分離が、現代生活への習熟能力だけでなく、子供時代に大きな影響を与えた人物の自己同一化・内面化によって達成されることである。
これについてのちゃんとした書籍を読んでないけれど、いわゆる「アダルトチルドレン」はこれができていない典型例かなと思います。

生ける屍の結末」でも「内在化」の話が出てきます。

他の発達課題についても同様だけど、これ、なにが難しいって、本人の主観では判断できないのですよ。
「はぁ?一人暮らしして自分のお金で食べてるし、意見も言える。アイデンティティなんてとっくの昔に獲得済みだよ」と、本人の主観では思ってるんですよね。

2, 親密性

ある人と10年以上も同居し、お互いに頼り合って相手のことを思い、深い関わりに満足を感じる(ということ。)
(中略)
この課題では、まず自我意識を拡大して、そこにもう一人をいれなければならない。
イコール「異性との結婚」というわけではないですが、数としてはそちらのほうが多そうです。

こちらも主観では、特に結婚済みの多くの人は「そりゃあ配偶者に嫌なところだってあるけど、それなりの家庭を築いてきたよ」と思っていたとしても、
本当の意味で「お互いに頼り合って相手のことを思」い、「深い関わりに満足」しているか?と言われたら、即答できない人も多いのでは。

3, 職業の強化

個人のアイデンティティを拡大し、仕事の世界で社会的アイデンティティを獲得することが含まれる。
(中略)
「作業」や趣味を「職業」へと変える決定的な4つの発展基準があると考えている。
それは、「満足」「報酬」「能力」「責任」である。
そして言うまでもなく、そのような職業には「妻であり母であること」、また最近では「夫であり父であること」も含まれる。
職業の強化プロセスは部外者から利己的だと思われがちである。
しかしそうした利己性がなければ、人は自分を見失い、分け与えるべき自己も無くなってしまう。
職業に関してもアイデンティティを持つべき。
ここで言う「職業」とは、いわゆる「会社員」とか「自営業」とかの狭義の仕事ではない。

個人的な見解で言えば、「誰かのためになっていることを自覚の上で行う作業」はばっくりここで言う「職業」とみなして良いのではないかなと思います。
例えば、絵を書いていたとして、それをひっそりと納戸にしまっているだけなら「趣味」だけど、ネットに載せて誰かが「素晴らしい絵ですね!」「感動しました!」と言ってくれるのが嬉しくて公開しています、ということであれば、「職業」の括りかなと思います。

4, 生殖性

私心なく次世代を導く明確な能力を示すことである。 (中略)
完成された自己を分け与える能力を示している。 (中略)
親が幼い子供に対して持っていた支配力の大半を捨て、ゆったりとかかわるような関係性を持っていることである。 (中略)
共同体をつくることを意味する。
ここでは、「30~50歳までの達成欲求が低下し、共同体や所属することへの欲求が高まることが明らかになっている」ともあり、ある程度、自ら得てきたものに何らかの満足や見切りがつき、「今度はそれを誰かのために」と思うのでしょうかね。

これは若い時に十分に発揮する人もいるということだけど、
自然に考えれば、アイデンティティも確立できず、誰かを心から受け入れたり頼ることもできず、仕事でも満足できていない50歳が、この生殖性を発揮できるとはあまり思えないので、やはり、できることならこれ以前の課題も経ていたいですね。

既にこの辺りでだいぶ「理想の老人」に近づいてきた気がします。

5, 意味の継承者

生殖性と、その徳目となっている”世話”は、特定の人物の世話をすることを求めるものだが、「意味の継承者」の役割と、その徳目である知恵と公正は、対象を限定しない。
(中略)
意味の継承者の主眼は、子どもの発達だけではなく、人類全体の所産───人の暮らしの礎である文化と制度───を保存することにある。
だんだんとすごいことになってきました。
もう特定の人物、地域やコミュニティというよりは、「この愛すべき地球を守りたい」的な視点なのでしょうか。
物理空間的にも、そしてなにより時間の尺度がかなり違うのだと思います。

ここまで来ると「達観している」感じですね。

6, 統合

死に臨んで人生そのものへの関心にとらわれないことである。
これはヒジョーに抽象的な説明になっています。
「自分の人生に意味なんてあったんだろうか」とか「死が恐ろしくて眠れない」ということもなく、自分の人生や世界のあり方や、そして自分も死んでいくのだということを静かに受け止めている、という感じかな…。


以上、6つの発達課題でした。

これらを意図して熟達してくのって難しいと思うのですが、
この概念を知っていることで、歳を取るにあたり
「自分は生殖性を発揮できているかな?」とか振り返ることができる、
というのは重要だと思います。


4つの対処戦略

人は無意識のうちに、自分を守る行動をとっているが、その中でも「未熟なもの」「成熟したもの」とが分けて書かれています。

「未熟な防衛」は、「短期的には本人を落ち着かせても、結局は前より事態を悪化させる」とのこと。
例えば、

・「投影」 受け入れがたい感情が他者に向けられること
・「受動攻撃性」 厄介かつ挑発的なやり方で自分自身に怒りを向ける
・「解離」 不愉快な感情を愉快な感情に書き換える
・「行動化」 無分別な行動によって考えや感情をあいまいにする
・「幻想」 現実の友人関係を架空の友人に置き換える

これらは「青年期の対処と人格障害を構成する要素である」ともされます。
アイディンティティの形成に悩む青年期は、このような(本来あまり望ましくない)防衛機能を発揮してしまうが、「時がたつにつれて、未熟な対処はもっと適応した対処戦略に変化していく」。

サラッと書いてありましたが「受動攻撃による防衛は自己を傷つけ、他人からの虐待を招く」とも書いてあります。
オドオド自信のない子だからこそさらにいじめられる…という感じでしょうか。。


「成熟した防衛」は主に4つ。
これらは道徳的で、健全な老いに大いに役立つとされてます。

1, 葛藤を解決し、つまらないものから価値あるものを作る 「昇華」 
2, 思いつめない 「ユーモア」
3, 自分のしてもらいたいことを人にしてあげる 他人が欲することをする 「利他的行為」
4, 毅然たる態度、忍耐、物事の明るい面を見る 「抑制」

子供の頃は非常に望ましくない環境で育ったスーザン・ウェルカムという人が、いかに成熟した防衛機能を発揮して幸せな老いを迎えたかということが説明されているので、これはぜひ読んでおきたい所。

きっかけとして、
・自分を重ね合わせられるメンターを見つけたこと
・母親への怒りを罪ではなく、健全なものとして受け入れられるようになったこと
・愛情あふれる家庭を持ったこと
ことが挙げられています。

そのおかげで、「愛する人々を内面化し、感情を素直に認め、安全に守られているという感覚を持てるようになった」。

いくつかのドキッとする質問

さて、本書で何度か出てくる「インタビュアからの質問」があります。

想像通り、これに即答できたり、非常にポジティブで心からの回答を出来ている人が、望ましい方として出てきます。

子どもたちから何を学びましたか?
最も気が置けなくて、迷惑をかけても大丈夫だと思う人はだれでしょうか。
(一番の親友はだれか。)
夫婦はどのように助けあっているか。

他にもいくつかあったような気がしますが、これに「我ながらネガティブで愛情の薄い回答しか思いつかない……」場合は、ちょっと一息ついて見つめなおしてもいいのかもしれません。


以上、これはぜひ、数年おきに再読したい本ですね。

次は5年後くらいかな…。