落合 陽一 / 魔法の世紀

2019-09-12クイック本(さくっと読める), science - fiction SF, IT, social 社会

確かTwitterか何かで知って。

著者である落合さんはなんと同学年なのですよね…。

確か「未来予測を嗤え!」で、「一部の先駆者と、そのフォロワーが世の中を作っていく。残りの大部分はそれに乗るだけ」という意味合いの記述がありましたが、落合さんはここで言う「先駆者」だと思います。


徹底的にポジティブに描くSF

てっきり私はこの本は「いわゆるIT系に造詣が深くない人」向けの、「ITのポテンシャルってこんなにすごいんだよ」的な本なのかと思っていたのですが、全然違いました。
その逆です。

コンピュータヒストリー、アートのヒストリー、と進み、最終的にはまさに「サイエンスフィクション」で描かれていることが実現されてきている(されていくだろうと思われる)というスケールの大きな話になっていきます。

SFファンとしては特別新しい視点はおそらく少ないですし、創作物語ではないのですが、
それでも普通にSFとして読めますので、SF好きにもおすすめです。

逆に、「ITは小難しい」「アナログの良さというものがある」「ネットは怖いもの」的な発想をしている「非IT系の人」には、読みにくいと思われます。
…けど、実際のところどうなのでしょうか。
「OSってなにそれ美味しいの?」みたいな60歳の人とかに読んだ感想を聞いてみたいです。


私は、SFが好きだけど、ファンタジーは好きじゃないと言うと、その理由を聞かれることがあります。(SFが「サイエンスファンタジー」だと思っている人もいるのでそこから話します!笑)

その答えとしては、

この現実世界が近~遠い未来にどうなるのかを考えるのがSF。
自分にリアルなドキドキや、それでいて息も止まるようなスケール感があるから楽しい。

なのですが、まさにこの本はそういう意味では完全にSFです。

・・・とすると、SFを好きになった原点であるミチオ・カク氏の「パラレルワールド―11次元の宇宙から超空間へ」なんかもやっぱりSFですね。。笑

ちなみに、ファンタジーに出てくる魔法等のフィクション要素は、"そこに何の不思議もなくただ存在するもの"として描かれているから、描かれるのは結局のところ現代と同じ世界での「人間模様」に終止すると思うのです。

SFは、フィクション要素は"現実世界の延長"として登場し、それによって世界はどうなるのか?人間はどうするのか?というのを様々な視点から批判的に検証していくようなもの。

「近未来、我々やこの世界はどうなるの?」に興味がある人は一読の価値あり。

それから本書で特徴的なのは、「批判的な視点での考察がほとんどない」ことです。
例えば「鈴木さんにも分かるネットの未来」は「ITに詳しくない人向け」だったこともあり、「コンピュータに人間が制御されることを何でそんなに怖がるの?」という文脈での話が多いのですが、本書では「当然それって素敵な未来に違いないでしょ」という大前提で話が展開していきます。

SFは「そうなった時にヒトはどうするのか?」という問題提起として、批判的な視点で物事を描く場合も多いと思うのですが(グレッグ・イーガン「しあわせの理由」とか、「一九八四年」とか。)
そういう意味ではこの本は「ポジティブSF」「ユートピアSF」とでも言えそうです。笑


インタフェースが無くなる

本書ではいろいろな表現で、「メディアの制限の中で表現をする」時代は終わり、ハードそのものを疑う・覆す・再定義する時代が来ている、という話ができてます。

SFファンとしては十分によくある話なので特別思うところはないでしょう。
例えばグレッグ・イーガンのようなハードSFでは既に人間の定義すら溶けている(電子化されているとか)ことが多いですよね。

ただ、これまでの歴史の変遷が説明されていて、非常に分かりやすいです。

それにSF好きと言っても、やっぱり現実世界の仕事となると既存概念上で物事を進めてしまいがちなので、気をつけていきたい所。


アートの変遷とこれから

こちらは自分は特に詳しくない分野なので非常に興味深く読めました。

石版や土偶、紙、スマホ… アーティストと名乗る人たちは何度もぶつかったことのあるであろう「ハードの壁」についてよく分かると思います。

Web界隈の人間たちが直感的に「エンジニアとデザイナーの境界は既にほとんどないし、今後もなくなっていく」と思っていることも、そのとおりであるとしてこの中で十分に語られています。

そう思っていない人は、読んでいる内に「ん?自分の思っていたアートとテクノロジーの境界ってなんだったっけ?」という気分になっているんじゃないかと思います。


それからなんといっても面白かったのが、「西洋の芸術はフレームレートを上げる方向で発展したが、東洋の芸術はエーテル速度を上げる方向で発展した」というくだり。

西洋庭園と日本庭園、非常に面白かった。

デザイナーの知人にもおすすめしようと思います。




というわけで、かっこいい言い回しで引用したい箇所がたくさんあったのですが、ハードSFを読んだ時のようなふわふわした感覚に陥ってしまっているので、それは二度目に読んだ時にしたいと思います。