宮崎吾朗監督 / コクリコ坂から

2019-09-10邦画

おすすめされたので。

かなり久しぶりにジブリ。
古い少女漫画を原作にした「耳をすませば」タイプの作品で、昭和40年頃の日本を舞台とした青春ラブストーリー。


「物語(ストーリー)を読んでいる」

レビューサイトの評価を少しナナメ読みしてみましたが、これは結構評価が分かれる作品のようです。
私は「けっこう好き」。

ただ、「宮崎駿監督のジブリ」として見ると抑揚が少なく、キャラクタがちょっと芝居がかっていたりとかして、「ドキドキワクワクが無かった」とか「子供と見たがつまらなかった」というレビューも理解できます。
これはまとめるとするなら、「宮崎駿系」ではなく「高畑勲系」と申しますか…「海がきこえる」とか「おもひでぽろぽろ」のような、「ちょっと大人向けの、郷愁を誘う映像作品」の系譜なのだと思います。
高校生が主人公なので「勢いのある青春ラブストーリー」を期待して観た人は、「なにこの地味で古いラブストーリーは?」と思ったかもしれません。

吾朗監督作品としても観るのは初めてだったのですが、なんとなく「ゲド戦記」もちょっと似ている(抑揚が少なく、キャラクタが芝居がかっている)んじゃないかなぁと勝手に思っております。
吾朗氏がどういう思いで作品を作っているのかは全く知りませんが、キャラクターの魅力(人間味)があまり無い作品ですね。

宮崎駿氏は「キャラクターが勝手に動き出す」作品を描く人だと思いますが、この作品のキャラクターは勝手に動き出しません。

実直に物語(ストーリー)に沿って、淡々と脚本を進めていく…そんな感じ。

ということで、普段ならここで「だからダメなんだ」と評価を下げる事が多いのですが、この作品はこの淡々とした感じがいい味出してると思うのですよね。

「人間味のあるキャラクターに共感しながら楽しむ」という、感情が大きく動かされる作品もあれば、
「第三者として作中の物語を追っていくと共に、あとで自分の人生も振り返るきっかけになるかもしれない」という、ちょっと淡々と観る作品もあるんじゃないかと。

なので「物語(ストーリー)を読んでいる」という感覚で観ていましたし、あまりキャラクタに共感もしないし感情が揺さぶられないので、初見はちゃんと観たのですが、そのあと珍しく「流しっぱなし」で繰り返し観る、ということをしました。



昭和中期の日本で。

個人的にはストーリーはとても好きです。
原作とは結構違うみたいですが、「耳をすませば」で原作のどんなものを削ぎ落としてどんなエピソードを作り上げてしまうかよく知ってるので、むしろ「さすが宮崎駿」という感じです。(脚本は宮崎駿。)

いわゆるラブストーリーとしては見ていなくて、「昭和中期の日本の学生たち」を見るのに、とってもイイです。
(ちなみにラブストーリーとして見るなら、二人が惹かれ合う描写がかなりふわっとしてるので、「察して」系の表現じゃなくて、もっとちゃんと惹かれ合う描写を入れてくれ。と言いますかね。笑)

例えば主人公たちがいい感じになる中盤、「実は兄妹かもしれない」という現実にぶち当たりギクシャクする、というシーンがあります。

もしかしたら原作では、「ラブストーリーとしての障害」として「異母兄妹疑惑」エピソードを入れているのかもしれないのですが、私はこの作品ではそうは思わなかった。

すでに亡くなってしまったと思われる父には真相を聞けない主人公の海は、母に「学校の先輩が、本当の父親だって教えてくれた人が、お父さんだったの。わたしたちは兄妹なの?」と聞く場面。
母は「あのころは戦争が終わったばかりで、亡くなってしまった他人の子を自分の子として育てる、なんてことが沢山あったの。お父さんは亡くなった親友の子を引き取って戸籍を出して、けれどあなたが居て私には育てられないから、子供を欲しがっているという知人に彼を託したの。(だから戸籍上、彼はお父さんの子供だけど、血はつながっていないのよ)」と答えます。

ここで海は、何を言うでもなく、声を上げて泣く。

これは「あ~よかった!じゃあ恋愛できるのね!」 という安堵のほうではなくて、「辛い時代があってお父さんやお母さんはその時代を生き抜いてきたんだ、そして、その中でも父は本当に優しい人だった」ということのほうを感じました。

そういう時代感を感じさせるエピソード。
「絵面がレトロでおしゃれ」とかいうのとはまたぜんぜん違う「その時代を描く」が表現されていてすごく好きです。



最後に、ジブリなので映像は鮮やかで綺麗だし、海や町や建物やなんかのの描写ももちろん、音楽もイイし、一つ一つの所作の描写もやはり素敵。

というわけで、ちょっと疲れたときにリビングに流しっぱなしにしておく大人向けの映像作品・・・ということで、いかがでしょう。

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