劇場版CITY HUNTER 新宿プライベート・アイズ

2023-11-06駄作認定, 邦画

誘われたので劇場にて観てきました。

「CHファン」というほどでもないけど、北条さんは短編集なども読んでいてわりと親しんでいる作家さんです。
ちなみに別世界線ということになっているAngelHeartは序盤の一悶着までは読んでました。



懐かしい! けど、それだけ!

音楽、キャスト、お決まりのもっこりと美女、お得意の家族愛・・・と、要素は頑張って詰め込んであります。

GetWildはもちろん、私も大好きなSARAなどの楽曲もしっかり入っていて懐かしさいっぱいでしたし、もっこり・美女・家族愛はCITY HUNTERの様式美ですから、そこはハズさずで安心しました。

が、それだけですね…。

いうなれば、

 もう一度黄金キャストが揃って、懐かしくも新しいCITY HUNTERが装い新たに、迫力満点に2019年の新宿に君臨!!

 1990年台のCITY HUNTERの春休みスペシャル編が劇場で見れます! 懐かしがりたい人集合~

という感じの1本です。

・監督
・声優音楽
・テーマ曲
・もっこり→ハンマー
・依頼人は美女
・依頼人は家族のことで事件に巻き込まれている

という、CITY HUNTERファンなら当然でしょ!というあたりの定石はほぼ全部、踏襲していて胸熱。
昔ながらのCITY HUNTERをもう一度スクリーンで、という方は観て損はないと思います。

しかしCITY HUNTER以前に、一本の映画としてワクワクしたい、という私には物足りませんでした。。



「それだけ」の理由

以下、盛大にネタバレを含みます。酷評です。
本記事はすべて「個人の感想」です!


「それだけ」になってしまう理由は、大きく2つあると考えます。

  • 脚本がありきたり&演出が下手
  • 香の役割がCHの定石を外れていて、映画内に「香がいない」状況になっている

「新しさ」には乏しい正当続編

まず、脚本

あらすじ自体は、おそらくそんなに悪くないです。
いわゆる王道を王道していて、うまく演出すればかなり面白くなった可能性があるかと思います。

でも、脚本を面白く魅せる「演出」がお留守です。

ここで上げておきたいのは、獠ちゃんが直接戦うことになる敵。
敵の大本は人間様ですが、見せ場で獠ちゃんが戦うのはドローンロボットです。

多分、「最新技術」VS「獠ちゃん」で今っぽさを演出したかったのだと思うのですが、これがめちゃくちゃダサいです。

いや、ドローン自体はよく見たらかっこいいのかもしれませんが、盛り上がるはずの戦闘シーンで、「封鎖されていて誰も居ない新宿御苑」で、一人でコバエみたいなドローンと打ち合いをしているだけなのですよ。
一応、ファルコンも助太刀していることになっているのですが、別のドローンロボットに追いかけ回されて、こちらも新宿御苑内で、共闘するでもなく、一人でドッカンドッカンしているだけです。

この地味な画はいったいナニ?

一応、「こんなスゴイロボットにも勝っちゃう獠ちゃん」の描写は3回ほどありましたが、相手がドローンなのでめちゃくちゃ地味です…。
途中で往年の挿入歌が流れたりするのですが、「え、ここ?全く盛り上がってないけどここで流すの?」という印象でした。

少々ウソっぽくてもドローンの動きや攻撃がもう少し派手だったり、せめて舞台が新宿の街の真ん中(危ないので封鎖はしてほしいけど)だったり、せめて遼ちゃんとファルコンは背中合わせで戦うとかにしてほしかったなぁ。

もう一つ言っておくと、敵の野望はかなり大それていて、その舞台を新宿にしたというところまではよいです。新兵器の威力を見せつけるために、大都市TOKYOの新宿で凄腕スナイパーを殺る。いいですよね。
でも、そもそも「大都市を舞台に大量破壊新兵器の威力を見せつける」ために、「隠密行動で特定のターゲットを殺す事が基本のスナイパー」をターゲットにするというのはかなり違和感があります。
「Angerl Heart」の序盤のように「(偶然)新宿を舞台が舞台になってしまった、裏組織や特殊部隊との攻防」なら分かるし、おそらくそういう画が描きたかったのだと思うのですが…。
「新宿自体を危機に陥れる」のか「冴羽遼という人間をターゲットにする」のか、絞ったほうがよかったと思いますね。
そのせいで新宿御苑バトルは地味だし、「新宿まったく被害出てないやんけ」みたいな緊迫感のない描写ばかりでした。

CHは基本的に「依頼人が命を狙われていて、それを守る」から獠ちゃんが狙われる(戦う)理由になるわけなのですが、今回はなぜか中途半端にターゲットを冴羽獠にしようとしたから、本来、怖いとかムカつくとか感じるべき敵さんがペラッペラすぎて、ハラハラもドキドキも何もなかったのです。。


そして、2つめ。香がいない

これはどういうことかというと、香は、気が強くて破天荒で度胸もあるが、決して戦闘員として強いわけでもなく聖母のようなたくましい精神力を持っているわけでもない、、だけど、冴羽獠とタッグを組んで事件に立ち向かっていくし、彼女が共闘してくれるから事件は解決に向かう。
だから、依頼人は最後、カッコよく守ってくれた獠ちゃんだけじゃなくて、「香さん、ありがとう!」と香も好きになってくれる。

・・・・・という様式美があると思っているのですよ。

今回、ほぼ、ありません。

香は今回、足手まといなことをしているだけの道化です。


なんといっても敵さんが「香のかつての幼馴染かつ今をときめく起業家」で、「昔、香に救われた過去があり、再会した香をパートナー(?)にしたい」という王道設定!!

そして、香がまんざらでもなさそうな態度を取って獠と微妙な関係になる、という。。

いや、王道の王道を行く設定ですから、やりきってくれれば面白いはずなのですが、なぜ香をパートナーにしたいと唐突に言い出したのかがよくわからなかったのです。よって、香がなぜそんな意味不明な幼馴染に聖母的な態度を取るのかもよくわからなかった。
(私は、「何かを企んでいて香を利用しようとしている」のか、「本当にパートナーになってほしいと思っている」のか、最後までわからなかったんですよね。)

やるならやるで、「どれほど香に感謝しているか」をもっとダイレクトにしっかり描いてほしかった。昔の思い出話出されたところで、不敵な笑みを浮かべて「君には本当に感謝しているんだよクックック」みたいなこと言われてもねぇ。。
「君はそんなところにいるべきじゃない」とかいう誰目線発言だけじゃなくて、「憧れや羨望で愛憎入り混じり…」とか「カッコつけてるけど、でも実は単純に好きだったんだ…」みたいな描写がほしかったです。
香のウェディングドレスを見て「不敵な笑み」するんじゃなくて「優しい笑み」にするだけでも全く見え方が変わるのですが、なんで「不敵な笑み」にしちゃったんですかねぇ。

そんなわけで、中盤、なぜか気まずい香と獠、という面白くないシーンが続き、そして「よくわからん敵」と決戦するぞってときに、香は別行動を取ります。

この行動自体は、「香を招き入れたい敵」に「わざわざ乗り込んで敵の懐をつく」という意味合いと、微妙な感じになっていた獠を、もしや裏切って相手につくのか!?という演出の両方の意味があり、理解できます。
ただ、まあ当然前者ですよね。

にも関わらず、そのまま無策で乗り込んだら武力で押さえつけられるなんて100も承知の場面で、なんの捻りもなく乗り込んで「ヤメテ!!」➞「捕獲」 という、素人もびっくりの謎展開。

え、なにこのシーン?

香を囚われのお姫様ポジションにしたかったための全く意味のないシーン。
香がただのアホに見えるという最悪のシーンですよ。

いくら戦闘のプロではない香でも、そんなことくらいは分かるでしょうよ。
どうしてわざわざ獠の足手まといになるような行動を取りに行くんですか??

先程書いたように、敵さんは実はガチ恋だったとか、香も実は昔惹かれていたとか何でも良いけど、敵さんとの関係がもっと深く見える演出があれば、無策でも「単身、説得を試みる」というのは「全然あり」な選択ですけど、そういう描写が一切無いのにただただ乗り込んで捕まるって、アホか???



以上です。。

というわけで、せっかくCITY HUNTERとしての様式美をちゃんと守っているにもかかわらず、脚本と演出がお留守なせいで、個人的にはあまり楽しめませんでした。。


あと、突っ込む気にすらならない「CAT’S EYE」の3人組が登場。
安っぽさに超絶拍車をかけてくれました。
突っ込む気にすらならないということで突っ込みません。


監督さんと脚本さん

気になったので調べてみました。

監督さんが こだま兼嗣 さんという方で、脚本さんが 加藤 陽一 さんという方。

どちらもかなり多くのアニメ作品を手がけてきてる方なのですね。
監督さんはキャッツやCITY HUNTERのアニメも歴代監督されてきていた方だから、やはり「懐かしさ」「当時の空気感」を一番そのまま再現しようと思ったならかなりベストなオファーだったっぽいですねぇ。
でも少しお歳かも。
最近のテンポに慣れている人が見ると、結構間延び感があったと思うのですが、どうでしょうか。

加藤陽一さんに関してはまだお若いけど、作品群を見ていると、「写実的/現実的/日常的」か「空想/ファンタジーに振り切っている」のどちらかが得意なのかなぁ、という印象は受けますね。
あるいはCITY HUNERの様式美(往年のファン)や監督のことを意識しすぎて少々忖度した感じの、振り切れない脚本になってしまったか…。
脚本自体は悪くなかったのかもしれないけど演出がそれを表現しきれなかったのか…。

声優はともかく、脚本でなくても、中枢部にエヴァのスタッフぶっ込むくらいの勇気があってもよかったのかも。

ちなみに北条司さんは、映画の公式サイトのコメントにて、「今の僕には当時と同じ感覚で『シティーハンター』を描くことは難しい」とのこと。

…ということで、究極的に「当時のCITY HUNTERをもう一度見れる」という作品なのかなと思います。