坂口安吾 / 白痴

2014-10-14novel 小説

今にも通じる個人の葛藤と、
今ではわからない戦争とのせめぎ合い
明瞭かつ劇的な表現と展開に脱帽
気分が良くなる話ではないけど、主人公の葛藤は現代人にも響くものがあるよね。
でもそのなかに、戦後世代には分からない、戦時中のいかれた世間とそこをさ迷う主人公がいて、
その意味では新鮮かな。


なんというか戦後世代は、その教育により
「悲しみ」「悲惨さ」「愚かさ」みたいな戦争イメージしか持たされていなくて、
そこに生きのびたしたたかな強い人間たちの泥臭さみたいなものはあまり教わらない。
とくに教育に出てくる「戦争」というテーマは、
悲しみ、哀れ、愚か、みたいな命題に全てが綺麗に昇華されている場合がほとんどで、
そこにいたるまでの葛藤とか血なまぐさい泥臭い人間ドラマとかを、ありのままに描かない。
ってかぶっちゃけ日本史と現代史の話にもなるけど、
明治維新、鹿鳴館あたりで日本史は"終わり"、
現代史では、戦争と首相の年度だけをひたすらに覚えさせられる。
で、終戦間近と直後の話やその後の経済発展についてはなぜか堰を切ったようにどこでもかしこでもされるのに、
鹿鳴館~太平洋戦争終戦のあいだ、
人々がいったいどんな生活をしていたのかは、全く知らないのだ。
生活レベルすらイメージ出来ないので、
「車なんてあったの?」
という感じ。
その意味で新鮮だった。
もっとこの時代の名作読みたいなと思った作品。