グレッグ・イーガン / プランク・ダイヴ

2020-05-19science - fiction SFグレッグ・イーガン

安定のイーガン!
短篇集ですね。
一記事長くなるけど、一話ずつレビューしていきます。


クリスタルの夜

テーマとしては、ロボットものでありがちな「人類自身がつくったものに反逆される・裏切られる」系ですね。
こういうありがちテーマ系は、予想もしない方向に行くのか、あるいはありがちなオチにどう落とすか?と、色々と予想しながら読めるのが楽しいところ。

実際に育てる(?)過程が具体的で面白かったです。
意外と、擬似的な肉体を与えられないまま電子から直接異端が生まれるSFって少ないような気がしている(まぁ、サイズが違うだけなのかもだけど)ので、その点においては新鮮だった。
オチはさすが、すぱっと持っていったなーという感じ。イーガンらしくて好きです。

小難しい話はあんまりなかったので、すいすいいけました。

エキストラ

脳移植と、自己認識の話。
これも語り口やさしく、読みやすく、ただオチは想定どおりかな?

たしかディアスポラで「自分自身のコピー」を、あまりネガティブじゃない描き方をしていた気がするので、むしろちょっと意外でしたが。

成功した方のグレイ視点を書いておいて、その後にエキストラとしてのグレイの語りを書いてくれてたら、もっと面白かったかな~という感じです。

暗黒整数

あれっ?
これイーガンだよね?
と言いたくなる程、「物語」している作品。
「ルミナス」という作品の正統続編らしいのですが、ルミナスは未読。でも楽しく読めました。
「中2病ストーリーを最高にカッコ良さげに描いた作品」とも思った。
境界が、とか、数論が、といった論理の部分は相変わらず私にはよくわからなかったけど、物語上のイメージとしてはついていけた。
ていうかブルーノ、惚れそう。
ハードSFでこんなこと思ったの初めてかも。

引用したいカッコイイ訳がいっぱいあったので、引用。

別れ際に、ぼくたちは握手をした。ぼくはいった。「消極的秘密結社へようこそ」
「さて、ノーベル賞は物理学賞と平和賞、どっちで獲りたい?」
キャンベルは遠慮がちに微笑んで、「両方でないと嫌だ、というのはダメですかね?」
「それがぼくの探していた答えだよ 」
ぼくはラップトップのマイクを切ると、三十秒かけて悪口雑言をわめきちらし、ダッシュボードを殴りつけた。それから、秘密結社に復帰した。
ぼくはカフェに腰を落ちつけて、世界を心から閉めだすと、数学に没頭した。
かっこいい。。
なんだこの中2病的イケメンは…。
イーガンが書くとさらっとしててほんとにかっこいい。
ケイトの存在が何とも言えなくいい感じです。これ結婚してるんだと思ってたけど、どうもただの恋人だったのが、最後のあの台詞に繋がるんだね?
幼馴染的で秘密を共有しているけどあっちは既婚で子育て中のアリスン、
その恩師で高齢のユワン、
物語を動かす若者キャンベル。
キャラ設定やポジションも完璧。

異文明と、世界をかけて自分が戦う、ってのはファーストコンタクト系SFといえるのかな。?
かっこよかったです!

ワンの絨毯

ディアスポラですでに読んでたので、さらさら飛ばし気味で読みました。

ディアスポラ全編が、人類が肉体を捨てた過程とか、コピーの概念などを語り問う内容になっていたので、あらためて読むと、その途中のように感じてしまうなぁ。

しかし、いずれにしろ、ファーストコンタクトへの人類たちの過程を淡々とじっくり書いている点が、いいですね。

他のバックアップや、地球にいる元自分たちは、それぞれどうする(のだろうと考える)、という描写が見所。

これまでだと「しあわせの理由」とかは、生理的に生々しい問題提起が多かったように記憶しているんだけど、いわゆる宇宙への進出という進化を描く話だと、生理的な気持ち悪さがほとんどないとこがいいね。

プランク・ダイヴ

表題作。
これはちょっと難しかった。
彼らの会話の重要なところが全然わかりません。。

物理学の話を除いてものすごく乱暴なまとめ方をすれば、オリジナルじゃなくなったほうが絶望する、という意味で「エキストラ」と似てる。
ので、そこに関してはあまり感じるものはなかった。
ただ、未来や真実を突き止めたい、仮になにか大きなものを失うことになっても、という衝動はSF好きとしては共感するところ。

それと、コーディリアとプロスペロは、なにか結末に大きく影響を与えるのだとばかり思っていたけど、そうでもなくて「あれっ、ここで終わりか」と思った。
この二人が来ても来なくても、ストーリーの起承転結全く変わってないような。
ある意味、コーディリアに説明することで読者に世界観を説明したり、プロスペロにくだらないことを主張させて反論させることで彼らの価値観を読者にわからせるなどの、「読者のアバター」的な役割だったのかな?

あとは、やはりブラックホールに関する文章量が多いので、そのあたりの物理学が分かる人はもっと面白いんだと思う。
理論解明のために彼らがなんで「飛び込む」という選択をしたのかすら、よく分かってない(それ以外の方法で解明できない理由がわからない)くらいなので。
う~んせめて概念はもう少し勉強してから再読したいな。

伝播

最初の偉業からいきなり80年吹っ飛び、そしてさらに40年吹っ飛ぶ。
イーガン作品で特徴的な、知的な女性と穏やかな男性のふたりが、時を越えて未知への探求をする、、、少なくとも、しようと思う欲動が、やはりある、という、短いながらも綺麗にまとめられている作品。
う〜ん。きれいです。
ある意味、これまで読んできたイーガン作品の中では、最も現実でありそうな話かも。