黒木亮 / 巨大投資銀行

2015-07-18味わい本(じっくり読みたい), money お金, novel 小説



モルガン・スペンサーの桂木さんをメインに、1985年〜1990年あたりのバブル崩壊から、その後を描いた上下巻。
叙情的な描写は少なく客観的で、バブル崩壊時すらも淡々と書いていくんだけど、色々な人が出てくるし情景の描写が細かいので物語として十分楽しめます。

金融工学まわりの知識はほとんどないので、トレーディング中の言葉の意味はしっかり理解しきれてないけど、ちゃんと説明入るし、読むのに問題なし。

固有名詞はフィクションが多いけど、出来事としては、ほぼ史実に沿っているらしい。


上巻は1985年~1990年あたりの、バブル~バブル崩壊までがメインでした。
下巻は1990年~2003年あたりまでの、バブル後のマーケットと、1時代を築いた人たちのその後といったところ。

20代の悩みなんてちっぽけに思えてくる

下巻の方は年がズンズン進んでいくため駆け足な感じもしましたが、日本をメインにした世界情勢とともに、そこを駆け抜けたビジネスマンたちの仕事人生を垣間見れるようで、とっても読み応えがあります。

上巻は、「働き盛り・伸び盛りの桂木さん、人生に悩みながらも頑張る」、という感じで1つ1つのディールを詳細に描くことで金融業界の臨場感を感じる構成だったけど、
下巻はそれをベースにした上で、かつての同僚や知り合い、ライバルらと再会を果たしたり、桂木さんがポジションチェンジしながら、部下を指導したり「組織(社会)のために」と「還元」していく姿勢になっていく。

自身が20代だからか、50代の仕事って全然イメージできないので、新鮮でした。
かつてのヘッドや上司、同僚、部下、客、同業種の知り合い、… 
仕事をしていて沢山の人と出会い、それが50代でも繋がっていたり、活きてきたり、そういうのっていいなぁ、とすごく思った。
特に、チャーリー・ホウズィアとの「朝起きて何をする?」のくだりや、橘さんとの話、ヤングVPもいいですね。

橘さんとのやりとりは量的にそんなに多く書かれていないのだけど、桂木さんにとって最初で最後の「良い上司」だったんじゃないかと思う。
一緒に歩んでくれて、教えてくれて、その後もいいお付き合いが続いている。いいなぁ。
その他には「良い上司」っぽい人はほとんど出てこなかったから、やっぱり橘さんの存在は大きいと思うな。
桂木さんが下巻で色々なところで活躍し、部下や組織のために尽力できる根底には、橘さんが教えてくれた色々があったんじゃないかな?と思ったりしました。

それから上巻では「少し優しすぎる」みたいな描かれ方をしていた桂木さん、下巻では、「こういうときの桂木さんは独特の黒いオーラが出て会議のテーブルに一人だけ鬼か悪魔が座っているようにみえる、と言われたことがある」という成長ぶり笑。
その言葉通り、「ビジネスってホント、社外も社内も、騙し合いというと極端だけど"ネゴシエーション"なんだなぁ」と感じるエピソードが多かった。

顧客とのやりとりはもちろん(実はまだ買ってないのに「買った(持ってる)」と嘘をついて相手の買値を聞き出すとか)、取り分で揉めた社内の別部署の足元をみて「ご破産になった」と嘘をついてがっかりさせておいて、「こちらの努力でやはり取れそうだ、こっちのお陰で取れそうなんだから、今回はこの取り分を主張させてくれ」と取り分を納得させたり。
これ嘘じゃん、バレたらよくないでしょー、と思いつつ、「大人の嘘」って色んな意味で大事なのかなと。
社内ふくめ、交渉というか、お付き合いは基本的に真摯にやればOK、とピュアに考えたい節がある。
でもビジネスってそんなに甘くないし、お互いに真摯に向い合ってビジネスするからこそ、いろいろなリソースを駆使しながら取引するべきなんだな、とも感じました。


印象に残った言葉は「Face the music」。
辞書を引くと「(自分の行為の結果に対して)進んで責任を取る, いさぎよく(世間の)批判を受ける.」とある。
甘んじて批判を受け入れる、というネガティブなシチュエーションで使われる言葉なのかな?と思うけど、
逃げも隠れもしないぞ、正々堂々、という桂木さんのような使い方もアリなんですね。


そしてバブル崩壊後のマーケット。
問題の先送り。破綻。規制の強化。リストラ。全然明るい感じがしない…。

竜神さんは特に、時代に愛されて「1つの時代を築いた男」として華々しい感じで描かれるんだけど、藤崎さんや桂木さんもそうだと思うんだ。
「その時代だったからこそ体験できた仕事」が多く、だからこそ様々な「いい経験」をして上り詰めることができたというか…。
時代を味方につけるのも実力のうちかな?

ヤングVPの少し下の「バブル崩壊後に新社会人になった世代」がどうしていくべきなのか、
そして自分自身やその後についても、考えさせられる良い本でした!