伊藤智彦(監督) 野崎まど(脚本)/ HELLO WORLD

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軽い気持ちで流し見てしまいました。

「恋愛」のパートは正直お遊戯で、どちらかというと「考察組」が、なにか一言言及しないと気がすまない、みたいな気にさせられるタイプの映画だなぁと思います。

面白いと思うかどうかは、結構人を選ぶんじゃないかな。
ネタバレあり、トリックについての考察は一切なし。



SFというより、パラレルワールド/IF/タイムループファンタジー

タイトルからしても「SF」として描いてる作品ですよね。

序盤は正直、小学生が「小説になろう」に投稿したんじゃ?みたいな感じのキャラクター紹介だったので、何やこれと思ったのですが、主人公の直実が「イーガンみたいだなって」と言っているので、描き手は結構ちゃんとSFをやろうとしているんだなと理解しました。

でも、最後まで見ると「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」にかなり雰囲気が似ている。
「IFもの」「パラレルワールドもの」「タイムループもの」のファンタジーに非常に近いです。
いわゆる「未来(過去)を変えたくて、過去の世界で奮闘する」タイプのやつですね。
「CANNON」のKeyとかが得意とするやつじゃないでしょうか。

そういえばそういうスマホゲームもあった気がしますね。(そうそうこれこれ→「7年後で待ってる」)
恋人を救うために過去を何万回もやり直しまくる、そしてそれは実は、自分じゃなくて彼女の方だった、みたいなの。
結構よくある王道なのですねぇ。

「考察班が楽しむ」作品

この作品は感動したかどうかというよりも、あれはどういうことなのか?なぜそうなったのか?を考察して楽しむのがむしろ「本体」と思います。

「IFもの」とか「ループもの」って、「時を越えた愛」とか「果てしない時間を想い続ける」とかいう描写自体に感動するものももちろんたくさんありますが、それは丁寧にキャラクターたちの想いを描写している作品であって、トリックのほうに軸足が置かれていて、その舞台装置としてキャラクターが生み出された、というのが透けて見えるチープなものも多い 気がするんですよね。

残念ながらこの作品は後者に見えたので、「トリックの考察が本体」になっているなぁと感じます。

まあ、キャラクター描写が微妙で主人公たちに共感したり魅力を感じない作品って概ねつまらないわけで、ジャンルは関係ないのでしょうけど。

ネタはネタとして面白かったし、CGの表現も結構よかったので残念。。。

「考察班」タイプの人にとっては、特にSFクラスタと自認している人にとっては「トリック」のほうについて一言したくなる作品でしょうから、そういう意味では面白い映画なのだと思います。

前後編で分けるとかして、もう少し尺を取って人物描写をしっかりしていればもう少し一般ウケもしたのではないでしょうか。

キャラクター描写について考えてみた

どうすれば「チープじゃない」キャラクター描写ができるのか、ちょっと考えてみました。

私がチープだと感じるときの条件の一つに、どうも「友人や家族との関係・シーンの有無」があるようです。

だいたいこういうのって主人公が高校生なわけですが、現実の高校生が「友達」との関係を無視しては生きていけないだろうと思うからです・・・。
生きていく世界が狭い高校生にとっては「友達」と「家族(家庭環境)」って超絶大事な要素でしょうから。

家族については、「大人」が出てくることでリアリティが増す分ファンタジー感が薄れすぎる可能性があるので、敢えて全く出さないというのは分かる。
(逆に家族との関係を真面目に書くと、重厚感のあるファンタジーになる。ペンギンハイウェイしかり、ハリポタしかり、ブレイブストーリーしかり。)

でも友達については、「友達がいない」という設定にすると、かなり孤独なキャラになるはず。
もしくは、よっぽどメンタルが大人である(振りをしている)理由があるキャラ、になると思うんですよ。

この作品、主人公の直実も相手役の一行さんも、クラスメイトと普通に連絡事項的な会話はしていても、いわゆる「友達」と会話しているシーンが一切ありません。
でも、それについて「寂しい」とか「孤独」っぽさを感じるシーンもほぼありません。
二人とも「友達はいないが、思い悩むほど孤独ではない」という設定に見えるんです。
でも、高校で友達いないって実際にはかなり孤独じゃないでしょうか…?

もしかすると小説版?ではそういった背景描写があるのかもしれませんが、映画ではそのあたりの描写がないから、キャラクター二人が軽いんですよね。。


「ループ考察が本体」でさえある「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」も、友人たちや家族とのシーンがガッツリ入っていることで成り立っていますし、「主人公がご都合主義的すぎる」と思った「君の名は」の主人公くんも友達や先輩と行動しています。
「友達も作れない孤独なボク(とキミ)」みたいな設定もよくありますが、もし本作がそうであるなら、 シンジくん@エヴァとか、零くん@3月のライオンとか、秒速5センチメートル@新海誠、くらい「孤独」をちゃんと分かるように描いてほしかったかな。


うーん、なのでどっちかというとこの作品は「なろう系」「異世界転生モノ」の軽さに似ているのかもしれません。
友達も家族もこれまでの経緯もほとんど関係なくても成り立つ、なぜなら異世界だから、みたいな。

うん。「異世界転生モノ」の雰囲気にかなり似ている。

・・・・と思ったら、監督が「SAO」の方じゃないですか!!!
脚本は日本SF大賞を取っている「野崎まど」という方らしく、なるほどぉ~~

SAO、見たことないですが「ゲームの世界に入り込む」という異世界転生ジャンルの草分けとして有名ということだけは知っています。
なるほど、だからネタ自体は考察班が楽しむほど面白いのに、せっかくの細部の描写が「異世界転生モノ」なのか。。。。

いやーすっきりしました。

ついでに「野崎まど」さんを存じ上げないのでざっと調べてみたら、「舞台装置は大掛かりだが、云々」という感想がどうやら多い様子。
HELLO WORLDの二人がいまいち魅力的ではない(少なくとも私には)ということが、野崎まどさんの意図するところなのか、そうでないことなのかは分かりませんが、なんとなく「キャラクターたちに感情移入してもらう」、「魅力的に思ってもらう」、ということを考えてそこの描写に力を入れて書く方ではなさそうかな?という印象。
考察したくなる舞台装置の設定とかを考えるのは得意な方なんでしょうね。

なろう系や異世界転生モノについては、現実世界の面倒なのを忘れて楽しめる痛快ファンタジー、としては素敵なジャンルだと思ってますので、貶める意図はございません。念の為。