倉貫 義人 / 「納品」をなくせばうまくいく

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「納品」をなくせばうまくいく ソフトウェア業界の“常識"を変えるビジネスモデル発売当初から購入していましたが、ようやく読みました!

ちなみになぜ読んでいなかったのかというと、サイトとかインタビューとかを読んで、エッセンスはもう理解してしまったと思っていたから。

いやーこれはぜひしっかり読んだ方がいいです。
倉貫さん、イケメン。


単なる会社紹介本とも言えるけど、それには理由がある

読み手としては、「エンジニア」「システム開発のことがよく分からない顧客」どちらも想定されていて、非常に読みやすく書いてあります。

前半は受託開発の限界や、なぜ「納品のない受託開発」を始めたのか、その仕組み、などが書かれています。

このあたりは、一度でも「高額な上に融通もきかない」開発会社に問題意識を感じたことのある顧客や、
大規模開発での炎上などでウォーターフォールに疑問を持ったエンジニアならば、
共感するところが多いと思います。
そういう意味ではさくさく読めるんじゃないですかね。

そして後半は、どうやってそれを実現するのかや、「銀の弾丸なわけではなく、向き不向きがある」という点についてもしっかり説明があり、「この領域(モデル)で救える顧客を増やしたい」ためにオープンにするのだという壮大な理念で締めくくられています。

顧客にとっても、整理されて選択肢が見えてくる本ですし、
エンジニアにとっても、自分のポジションや今後の流れを考えるヒントになると思います。


エッセンス

さて、参考になる表現をピックしておきます。
たくさんあるので引用しまくります。


要件定義はいわば「未来に対する予測」です。
要件定義はそもそも難しい行為です。未来を見通すことはできない中で、将来に必要な機能をすべて決めてしまうのは「予言」に近いのです。
これについては、倉貫さんも繰り返し「向き不向きがある」と言っているように、どんな機能が本当に必要なのか、スタートする前段階では分かりにくい「スタートアップや新規事業」はその通りと思います。

逆に、「決めてしまわないことには進めない」もの、「最初からカンペキじゃないと意味を成さないもの」に関しては当てはまらないですね。
例えば大規模なATMのシステムや政府系・公共系のシステムなど、一度でも間違いがあったら大問題になるもの。
このあたりはやはり、既存のSIが行うウォーターフォール型の大規模開発が合うのではないですかね。
とはいえそういうシステムにも柔軟性は求められていると思うので、どんどん進化していけるといいのですが。



一括請負のビジネスモデルでは、開発会社は起こりうるリスクを積み上げて、また多くの機能を作るような提案書を書いてくるでしょう。
それは、その部分がそのまま開発会社にとって利益の源泉になるからであり、それだけの"バッファ"をもらわなければ完成リスクを引き受けることができないからです。

多くの案件を抱えている開発会社であれば、案件ごとに多少の黒字か赤字かのデコボコがあるにせよ、ある程度の赤字が出ても補填して対応してくれる体力があるからです。
リスクを預けるのは保険と同じで、大きな会社のほうが安心だということになります。

小さな会社であっても大企業と同じシステムを作ること自体は可能であるはずなのに、
仮に両者に見積もりを依頼したとして、その時の見積金額は大幅に違うのが実情なのではないか、と感じてます。

大企業が上乗せしているのはつまり「問題が起きないために色々と行う作業分」であり、システムそのものの額ではなく、
これまでの経験上、この辺はゴリゴリに決めておくべきとか、リスク担保のためにあれこれをすべきとか、
そのために、開発以外で色々な作業を行いますよということなんだと思ってます。

これ(小さい会社と大きい会社との見積額の差)を、私は保険料だと思ってます。

個人的には、顧客はどういうタイミングでどんな要求をしたら開発会社が赤字になるのかわからない(あるいはどうでもいい)わけですから、
顧客が「補填してくれる体力がある」かどうかという直接的な感覚を持っている場合は少ない気がしますが、
顧客からしたら「問題がより起きにくいほう」「問題が起きたときにちゃんと責任を持って対応してくれるほう」を選びたいですから、
倉貫さんと言っていることは一緒ですかね。



打ち合わせで決定していく仕様設計に関しても、もちろん顧問のエンジニアはプロとして考えますが、顧客にも一緒になって考えてもらう必要があります。
それが「納品のない受託開発」の成功のカギだからです。

チームになりたい、とか、目的やビジョンの共有を重視するといった趣旨のことがたくさん書かれています。
特定のものを作って終わり、納品して終わり、の関係ではなく、一緒にビジネスを成功させていくチームとしてやるからこそうまくいくのだという考えからですね。

なので、「プロなんだから顧客の要望や不明点を全て汲み取ってカンペキなものを作り上げて当然でしょ?」と、
「私たちは素人で相手はプロだから」という論理で丸投げしてくるような顧客はおそらく相手にされないですね。

これは開発側の責任でもあるのですが、こういうスタンスの人は結構多いと感じています。
分かりにくいのも、とっつきにくいのも理解できますが、ビジネスの大事な部分を担ううえ、安くない金額を支払うのです。
(そもそもここで、相場も調べず「そんなもの×円くらいでできるでしょ!?」と豪語してくる人すらいますが……)

重要なものを作ろうとしているのに、少し検索したらたくさんの情報が出てくるのに、
なにも調べず勉強せずに「プロでしょ?」の一言で全て相手のせいにしてしまう顧客には、
残念ながらいい開発会社やエンジニアはつかないと思います。

そういうスタンスだと感じれば、開発会社は受けるにしても高リスクと考えて高額に見積もりますしね。
あんまりいいことないと思います。



このマイルストーンは、約3ヶ月いないのことしか決めません。
それ以上先のことになると、計画というよりも単なる希望や願望になってしまって、あまり意味がないためです。

これはソニックガーデンさんの進め方について書いてある一言ですが、
通常の計画にも大いに役立つ指標になりそうだな感じました。

もちろん、ウォーターフォールでガチガチに決めて動かなくてはいけないものは、計画もガチガチにしますが、
3ヶ月後って基本的に予定通りに進んでいることはほとんどないような気がするんですよね。
大まかな予定を組んでおいて、あとは3ヶ月毎に詳細計画に落とす、くらいが妥当なんじゃないでしょうかね。
あるいは3か月毎に見直し、詳細な予定の変更は抱え込める大計画にしておく(一緒か。。)とか。

個人の行動計画に関しても、これくらいが計りやすそうだなーと漠然と感じたので、取り入れてみようと思います。

ちなみに余談ですが、こういう数字って実は結構ためになることが多いです。
以前「人月の神話」で、「実際のコーディングは6/1くらい」という記述があったので
現場で大いに参考にしていたのですが、これがいい感じだったりするんですよね。



私たちが顧客と最初に考えるのは「操作が一回りする」ことです。
毎週の打ち合わせで、顧客に決めてもらうことの一つが、「作用(タスク)の優先順位」です。
なるほど。
これは大いに参考になりそうです。

「操作が一回りする」という発想は無かった。
いわゆる「業務フロー図」みたいなものは書くのですが、それは上(はじまり)から下(終わり)までの一直線です。
でも実際はそれらがぐるぐる回っているわけで、「一回り」すると考えたほうが、Webサービスとしては妥当な感じがしますね。

ATMのように1トランザクションごとにお金の動きが定義される、みたいなものであれば
上から下の一直線で考えるのが妥当ですが、業務全体としては基本的にどんな仕事も「一回り」しているはず。

それから「優先順位を決めてもらう」、
これは顧客にとっては「本気で考えてないと出せない」答えですよね。
「そんなものは請け負っているプロのあなた達が決めることであって私たちは知りません(全部再優先です)」ではなく、
実際問題、抱えているエンジニアをチームメンバー(リソース)として純粋に考えれば、
「何を優先するか」がいかに大事な話なのかがよく分かるはず。



この精神を「YAGNI(ヤグニ)」という言葉で表します。YAGNIは、You Aren’t Gonna to Neet It.(そんなの必要ないよ)の略です。
ほお、これは知りませんでした。
「それ本当に必要?」「今必要?」はそのへんのコンサルがドヤ顔で言ってきそうな言葉ですが、
ベテランであっても、それをしようとしてしまうことって多いと思うので、ふと我に返れる言葉として有用なんじゃないですかね。



こうしたビジネスを「ストックビジネス」と呼びますが、ストックビジネスの場合、新規営業よりも、既存の顧客との関係を長続きさせることの方を重視します。
「属人性の排除」より「人を大事にする」
私の職場もそうでしたが、リスク担保のために「属人性をいかに無くせるか」ということを考える現場は多いと思います。
でも、「属人化している(する)からこそ価値が出る(高い)」状況も多いと思う。
どちらに振り切るべきかは時と場合によるでしょうが、
もう仕組み化と効率化だけが正解じゃない、という意味でもガツンとくる言葉だと思います。

属人化に振り切るということは、人一人と真剣に向き合って付き合っていかなくてはいけないということでもあり、
かなり覚悟が必要な選択だとも思うわけです。
契約書のペライチでじゃあねさよーなら、あとはオカネで解決、とできない関係を、従業員とも、顧客とも結ばなくてはいけない。
だからこそ倉貫さんは「相手を選ぶ」わけで、誰でもどんな相談でも引き受けます!!みたいなことはしてないんですよね。



そこで、多少不安定だと思っても小さな会社に入って、その不安定な状態でも生きていけるスタイルを身につけた方が、よほど将来は安定するのではないでしょうか。
これからの日本の産業構造として、大量生産をするような産業は海外の新興国に勝てるわけがないので、それ以外の部分で価値を見出していくしかないように思います。たとえば、誰かの難しい問題を解決するような仕事や、ゼロからイチを生み出すクリエイティブな仕事にシフトしていくことになるでしょう。そうした職業では、会社に社員がたくさんいるからと言って、生まれる価値が高まることはありません。
そうした社会になった時、本当に大きな企業が必要なのか、とういうことです。
切り込みますね-。
でも、アラサー以下、あるいはアラフォー以下あたりは体感としてこういう感覚があるので、
この辺は納得度が高いんじゃないでしょうか。

逆に、こういう世の中だからこそ公務員になるべきとか、大企業の安定的なポジションを何が何でも目指してしがみつくべき、という結論になる人もいると思いますが、
やはり個人的には「不安定な状態でも生きていけるスタイルを身につけ」たいですね。

戦後の経済成長のあたりで、政府の触れ込みもあってまんまと「安定した職と生活と老後」という概念が一般化してしまいましたが、
それが半永久的に続くならともかく、やっぱりそんなことはなかったわけで、
だれもが「不安定な中でどうやって生きていくか」を柔軟に考えていけるといいんじゃないですかね。


以上でした。

言っていることは全体的にカッコイイのですが、それを実現するためにかなり厳しいことを仰っているのが印象的。

実は一度問い合わせしているのですが、ソニックさんの目指しているモデルと問い合わせ内容にギャップがあったのと、
とてもじゃないですがこっちがついて行けない状態だったので話は進みませんでした。

この業界にいればいつかご一緒することがあるんでしょーか。(´°ω°`)ドキドキ