Stand By Me

名作, 洋画

やっと観ました!
スティーヴン・キング原作、そして「BEN E.KING」の同名の名曲「Stand By Me」が主題歌というお強い名作です。
しっかりネタバレしてます。


大人のための名作

実はこの作品、わざとずーっと観ないようにしていました。
「少年たちのひと夏の冒険」というテーマで名作、しかもタイトルが「Stand By Me」ですから、おそらく子供時代を思い返して懐かしく思うような作品だろうと分かっていましたのでね。

適齢期になってきましたので(笑)、満を持して観させていただきました!


思っていた以上に「キラキラの青春」というよりノスタルジーな感じですね。

ご都合主義というか、全員悩みが良い感じに解決する、という娯楽フィクションのような話ではない。
「小さな村の中で、生き辛さを抱えた12歳の少年たち」の青春をリアリティを持ってここまで表現した、というのがすごいです。原作は言わずもがな。キャスト(演技)もすごい。

彼らは元々繊細な年頃というだけでなく、「中学入学前の秋」という「みんなの人生がここで分岐していく」という岐路にも立たされていることを、よく分かっているわけです。
(そういえば「路傍の石」でも中学入学を前に少年たちの葛藤がありますよね。)

4人のメインキャラクターの位置付けも完璧です。

主人公ゴーディは文才がある「頭いい」キャラだが、両親(特に父)はアメフトの強い歳の離れた兄の方ばかり気にかけていた。その兄は弟のゴーディの文才を認めてくれる一人でゴーディも慕っていたが、数ヶ月前に交通事故で亡くなってしまう。

ゴーディの親友クリスはいわゆるガキ大将で、正義感のあるイケメン少年だが、自分がどうとかではなく「家が良くないから」進学なんてできないと思い込んでいる。

ちょっとイカれてるメガネのテディは、戦争でメンタルやられてしまい、自分の耳をも焼こうとした軍人の父のことをそれでも誇りに思っているアーミーオタクで、父親を馬鹿にされると激昂する。

バーンは少し太っていて鈍くさく、いわゆるちょっとイジられキャラ。


ゴーディは父親に「お前の友達は泥棒だ」と言われたり、「(兄ではなく)お前が死ねばよかった」と言われる夢を見るほどで、クリスは「君は僕たちと違って進学組なんだから僕たちと仲良くしていたらダメだ」というクリスに反発してみたり。クリスは「君は小説家になれるよ」と言ってくれるのだけど「小説を書くなど時間の無駄だからそんなの目指さない!」と言ったりする。。
けれどクリスはそれに対して「君の親はお兄さんことばかりだけど」「才能は誰かが育てないと失われてしまう。君の親がそれをしないなら、僕がそれをする。」と、ゴーディを励ます。

なんだそれかっこよすぎないか・・・・・。
どこの恋愛小説の告白の言葉よりもイケメンな発言です・・・・。

クリスは親もワル、兄もワル。
一度くすねた給食代を返そうとしたが、その時返したはずの先生がそれを自分の私物にしてしまい、クリスは文字通り泥棒になってしまったことをゴーディにだけ告白。
「もし俺がお金持ちの家の子供だったら、先生は返した給食代を自分のものになんてしなかっただろ」といって男泣き。


でも彼らは12歳で。
基本は「お前の母ちゃんデベソ!」みたいな取っ組み合いの喧嘩しあいながら進んでいく。
きっと男性は女性よりも「そうそう、12歳の頃ってこういう感じだった」とノスタルジーを感じることができるんじゃないでしょうか。
例えばゴーディが近所のヤンキー「エース」に兄の形見のNYキャップを奪われたとき、クリスは対抗して嫌味を言いますが結局負かされてしまいます。このときも、ゴーディは「僕のためにありがとう」なんて言いません。無言でお尻をキックし合うだけです。
ここの描写の上手さは、脚本だけでなくキャストの演技の賜物でしょう。本当に4人は12歳くらいだったようですが、「生き辛さ」をリアルな年齢で表現できていてすごいですよ。


終盤、案外あっさりと目的の「死体」を発見します。
クリス、テディ、バーンの3人は、あの死体を見てどう思ったのかは正直良くわからなかったのですが、ゴーディだけは兄のことがあって「人の死に向き合ってみたい」という目的があったのが分かりやすかったですから、実際に死体を見て「どうして死んじゃったんだ」と立ち尽くすのは分かる気がします。
死んでしまったら何にもならない、残された人の人生は? 何の準備もなく勝手に逝ってしまうなんてズルいんじゃないか・・・ そんな「どうしようもない唐突な終わり」を、同じ歳・同じ街の少年の死を目の前にしてやっと、少しずつ実感を持って向き合うことができたんじゃないでしょうか。

ここでエースが手柄を横取りしようとしてきて、クリスとゴーディは、クリスが家から持ってきていたピストルで脅して彼らを撃退。
結局このあと4人は匿名で通報するということからも、これは「手柄を横取りされたくないから戦った」のではなくて、「僕たちの神聖な心の旅を邪魔するな」というものだと感じました。
ゴーディがクリスのためにピストルを構えたという友情面も無いとは思いませんが、やはりどちらかというと「邪魔すんなよ」に近いと思います。

この旅で人生が変わった、、なんて大げさなものではないかもしれないけれど、この後クリスは努力で進学して弁護士になり、ゴーディも物書きの夢を叶える。

ずーっと一緒で大人になっても仲良し四人組!とかじゃなくて、現実と同じで4人はしっかり疎遠になって別の人生を歩むんだけど、だからこそ、大冒険でもきれいな思い出でもなんでもない当時の旅が、鮮やかなノスタルジーとして思い出されるのでしょう。


配役については驚いたのが、「エース」はまさかの24シリーズの主人公、キーファー・サザーランド! いや~良い成長をしてますね。
そして作中で亡くなるクリス役のリヴァー・フェニックスも、若くして23歳で薬物中毒で亡くなっている。
(テティとバーンも原作では大人になって亡くなっているらしいけど、役者さんは現役で元気のようです。)


「田舎」とか「育ちの良さ」とか

について少し考えさせられるノスタルジーがありましたね。

私自身は、おそらく全人口を横に並べると比較的「育ちの良い」部類に入るという事自体、大人になればなるほど実感しているのですが、それを改めて思わせられる脚本だった。

例えば、学校でいわゆる過度のイジメは見たこと無い(誰々ちゃんを無視する~とかのはあったのかもしれないけど、少なくとも私は知らない)し、大学進学が当たり前だと思っていたし、ヤンキーやカツアゲやサボリや暴走族なんて漫画の中だけのものだと本気で思ってた。だから大人になって、カツアゲや喧嘩や停学や云々が「同じ時代に同じ日本で当たり前のように行われていたところもある」と知って驚いたよ。

小学生なんて「地域(学校)」と「親(家族)」が全てだから、ゴーディたちの生き辛さは相当なものだと思う。

さっき書いた「路傍の石」、これは時代がもう少し前(Stand By Meと比べると50~60年ほど昔)の日本ということもあって、「現代とは違う」価値観で読むこともできたけど、実は描いてある内容、かなり似ているんだよね。
まさに小学6年生のとき、「頭はいい」のに家庭の事情で進学できないという悩みを持っていることとか、近所の悪ガキ揃って「線路で肝試し」しようとしたりとか。
「路傍の石」は大人になって成功し始めるところまで描かれるから、本作と似ていると言う人は少ないと思うけど、序盤は非常によく似た空気感を持ってる。

結局、「家庭の事情」や「地域や環境(の柵)」のせいで、クリスの言う「神様が与えてくれた才能」があったとしても、それを開花させる機会を掴めない人というのは、現代でも当たり前に、そしておそらくたくさんいるんだということ。
それって「子供の出稼ぎが普通だった100年前の日本だから」とか「60年前の田舎のアメリカだから」とかじゃなくて。
だから、「そういう子供時代」を生きてきた記憶がある人には、これは本当にリアリティのある、ほろ苦い映画なのだと思います。


山本有三との共通点

本作はスティーヴン・キングの「Different Seasons」という、春夏秋冬をテーマ?にした4短編のうちの一作らしい。「The BODY」で直訳すると「死体」というタイトルなのだとか。
そして、そのうちの一作に「ショーシャンクの空に」があるのだとか。ヒェ~~。すごいな。ヒットメーカーだ。

ホラーが苦手なのでスティーヴンキング氏の小説や映画は見たことない(グリーンマイルと、ショーシャンクはもしかしたら一度観たかな…)のですが、ヒット作を連発する才能の一端を垣間見れてよかったです。

キング氏のWikiを読んでたら、路傍の石(というか山本有三)に少しだけにてるとこある方なのだね。
幼少期に父親が失踪しているとか、まさに路傍の石じゃないですか…。
(確か山本有三氏自身は父親が失踪したわけではないけど、それに近い何かを抱いていたと思う)

「生き辛さ」、というか家族(主に父親)に対する憎悪・嫌悪的なものを幼少期のリアルな体験として持っている方だからこそ、まさにそういう「ハッピーなだけじゃない、生きるということ」を生々しく表現できるんじゃないでしょうか。

戦争だとか地球滅亡だとかそういう分かりやすい危機に対してじゃなくて、「世界は僕が何をしてもしなくても、全く同じに過ぎ去っていく」みたいな、寒天で固められたかのような日常の中での、「生きていくということ」。

山本有三もスティーヴンキングも、厳しい幼少期から大成するというサクセスストーリーの体現者ですが、だからこそ生き辛さを抱えて生きる人達の心に響く物語を描けたのではないでしょうかね。


路傍の石も名作なので、ぜひ。
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路傍の石
山本 有三 (著)