中川淳、 西澤明洋 / ブランドの育て方

2023-02-19interest 好奇心, PR 広報・ブランディング

DEAN&DELUCA、MARKS&WEB、スノーピーク、ドラフト、トーヨーキッチン&リビング、六花亭製菓、6社の代表とそれぞれ、デザインや経営、ブランディングについて語った対談集。
そのあと簡単なまとめと、締めの対談が入っています。

おそらくブランディング初心者向けで、文章も対談の文字起こしという雰囲気でかなり気軽に読めますが、まとめられているのは抽象度の高いエッセンスばかりかと思います。
ブランドの成長フローの図示などもあってわかりやすい。

2012年発行で、私の初読も2014年とけっこう昔なので状況が変わっていたり、新鮮さは無いかもしれません。
しかしさっと読み返したらやはり面白かったので、気になった箇所をまとめ直しておきます。
 

DEAN&DELUCA

本家は1977年@ニューヨーク、日本法人(ディーンアンドデルーカジャパン)は2002年設立。
本書は日本法人の対談です。

一言でまとめると、日本法人設立時の代表横川氏の経験がガッチリ市場にマッチして、そのままスタッフの「好き」という熱量を軸にブランドを守り(育て)続けているということと思います。
ブランドとは「人格」である、とのこと。

百貨店の1Fの角などにガラス張りで入っていることの多いディーン&デルーカ。
あのロゴトートを持って歩く女性も多かったですよね~。(2022年の最近はあんまり見ないかな?)
おしゃれなカフェ空間なのに食品類の販売が同じ空間内で実現している店舗です。

まず、日本では「物販」「食物販(中食)」「外食」という業態同士の隔たりが大きく、これらをミックス(両立)させるのは結構難しいらしい。
例えば店舗で世界観を演出したいファッション業界(物販)がカフェ(飲食)を併設したがるのはよくある話らしいんだけど、おそらくオペレーション、仕入れ、店作り、スタッフ教育等が全く違うのでしょう。軽い気持ちで始めても上手くいかないということのようです。

ディーンデルーカの場合、代表がインテリア雑貨販売(物販)や外食業態の経験がもともとあったことが、まずポジショニングとして有利だった。
さらに、物販で磨いたデザインの重要性や感性も活きた。
デザインの重要性の理解とそれを実現しようとする感性や仕組みというのは、それこそファッションやインテリア等のデザイン領域以外においては2000年あたりではまだまだだったと思う。それを最初から持っていた、というのは大きな強みだったようです。

そして、この世界観を実現し続けるために、採用では「食が好き」を第一に評価している。外食や物販の経験やスキルよりも、「食が好き」が大事。
例えば「カフェが好き」なスタッフは、その好きの度合いが半端じゃない。もはや研究者レベルであらゆるカフェに通っているが、それを「好き」でやってしまうタイプの人。今でいう「オタク気質な人」ですかね。

2022年現在、まさにファッションの店舗がカフェを併設するような例がまた増えているような気がしております。
それぞれを別業態としてしっかり運営しなくてはならない、という理解やナレッジが増えたり、あるいは別の理由で昔ほど業態間の隔たりは昔ほど高くないのかもしれません。
また、デザインや世界観、それこそ「ブランド」が、海外の高級ロゴカバン以外の概念としてビジネスに非常に重要である、という理解も当たり前のものとなってきたことも影響しているのかもしれませんね。

MARKS&WEB

2000年に日本で設立され、2012年には66店舗を展開。2022現在は82店舗です。
東京に住んでいると、パルコの1F等でよく目にしますよね。シンプルでリーズナブルなボタニカル化粧品ブランド。私もたまに購入します。

一言でまとめると、松山代表の「受け継いだ自然派石鹸の会社(松山油脂)」のノウハウや体力を活かし、三菱商事時代に気づいていたデットスペースの活用やそれを活かせる三連什器の開発を足がかりに、内製主義で社員教育に力を入れながら一貫したデザインを守り(育て)続けている。
ブランドとは「伝えること」である、とのこと。

もともと松山油脂では問屋等を挟んで顧客に直売ができないから、直接販売できる店舗ブランドを作りたい、というのがきっかけだったらしい。
流行りの自然派化粧品でありながらリーズナブルな価格帯で、しかも直売店舗を設けて世界観をコントロールする事ができる。
化粧品開発は販売開始までに非常に時間がかかりますし、店舗となると什器等の設備も必要となるので、そこそこ参入障壁が高いらしいです。
(MARKS&WEB単体で利益が出せるようになったのは20店舗程度出してからだとか…。そりゃあ完全新規参入はキツい)
なので、もともと自然派石鹸のラインやノウハウや利益があったことも大きなアドバンテージですし、数坪しかないデッドスペースを店舗にして「三連什器」と呼ばれる什器にアイテムをキュッと並べる(ためのアイテム)デザインも、コストと世界観統一にピッタリはまっている。

さらに、トータルでデザインのコントロールもしている代表が元々デザイン感度が高かったというのも、やはり大事な要素のようですね。
ディーンデルーカ代表の横川氏と同じく、物販(洋書店)の経営経験もあったようです。

人事に関しては、まず採用はMARKS&WEBが好きかどうか(「使ったことのない人は採用しない」という言い方ですが詰まるところ好きかどうか・自分のブランドとして興味を持てるかどうかということだと思います)で判断し、そしてできる限り外注せず内製主義で進める。
「社員の成長が会社の成長」を言行一致させたい、ということで、会社が実現したいことをできる人を集める、というのが最短距離だとしてもそれをやらない。
これはすごいですね…。わりと戦略的に進めている印象を受けたので、私は非常にギャップを感じました。
「ジョブ型雇用だ!」「流動性を高めて競争力を!」と叫ばれている昨今においては、ともすれば昭和レトロ感のある価値観のような気もしますが、だからこそそれがブランディングたり得ているということなのでしょう。

さらに「一人三役」として複数の領域に跨って仕事をすることで(これは明確なルールなのかどうかまでは分かりませんでしたが)、複合的に考える事ができ、全体のブランディングに寄与している。
これはいわば、大手の「将来のマネージャー候補はいろいろな部署を経験させる」というのを、全員に同時並行でやらせているということなのではないでしょうか。言われてみれば中小企業なら完全分業なんてしてないわけだし、同時並行して何がイケないんだという感じかも。

2022年現在は、自然派でオシャレでリーズナブルなケア用品や化粧品というのはかなりのレッドオーションになっている認識です。
特に韓国コスメにかなり押されているように思われますが、店舗運営自体は順調のようですね。
安っぽくなった、古臭くなったという感じは個人的には抱いておりません。

LEAF&BOTANICSなどの松山油脂ブランドもおそらくここ10年で増え、リキュール等の食品ブランドや店舗も展開しているみたい。
2017年にホールディングス化して、もうしばらくしたら経営は誰かに譲っていくようです。
本書に書いてある「今後の展望」の宣言通りすぎる未来。すごすぎる。

スノーピーク

創業は1956年、新潟に本社を構えるアウトドアブランド・メーカー。プライム上場企業で、米、韓国、台湾も含めて24店舗。

最近ちょっと話題になりましたよね。
本書は2012年の書籍で、インタビューに答えているのは当時の社長であった「山井太」氏なのですが、2019年に会長に就任して社長職は長女が就任。
その長女である梨沙氏が2022年に不倫騒動で社長を辞職、さらには鼻につくブランディングがどうとか…。
結局2022年の騒動で社長職は再び山井太さんになっているようです。

さて、一言でまとめると「欲しい物が無かったので自分で作って売ったらキャンプブームにマッチして成長し、その後こだわって社内でものづくりをするだけでなく、実店舗での説明やコミュニティでのファンの囲い込み等で太客を掴んでいる」。
ブランドとは「説明すること」とのこと。

もともとは現在の代表である山井さんの父が創業し、釣り具などを販売していた。
登山用品は売上の一部だったが、1986年に入社した山井さんはアウトドア好きで、自分が使いたい品質のよいアウトドアブランドの展開を開始。
団塊世代のキャンプブームに合致して成長、その後キャンプブームが鈍化して売上が激減した。
その時(1998年)に初めて直接ユーザーの声を聞こうということで「SNOW PEAK WAY」というキャンプイベントを主催。

そこでのコメントを実直に受け止め、まずは問屋を通すことをやめて価格を下げるとともに1つの売り場での品揃えを増やした。
さらに直接、ユーザーでもある社員が製品の説明をできるようにと自社店舗も構え始め、キャンプイベントも今では数千組が参加する規模となっている。

また、山井社長がトップディレクションでデザインを統一しているだけでなく、もともとスノーピークユーザーである人が入社することも多く、「デザイン✕エンジニアリング✕アウトドアライフ(が好き)」というスキルを持った社員が社内で一貫して製品開発をしている。
これによってさらに「スノーピークらしさ」が保たれている、ということのようです。

最近では高品質で安価が売りのワークマンなどが微妙にキャンプ用品領域に参入していたり、ブランディングが鼻につくと炎上したりなどこれまで通りにはいかないと思いますので、どう展開していくのか要チェックですね。

トーヨーキッチン&リビング

1934年に現代表の先代がステンレス食器メーカーとして創業、その後「TOYO KITCHEN STYLE」という高級キッチンブランドとして指名買いされるブランドに。
現在はブランドの名前「トーヨーキッチンスタイル」を社名とし、インテリア全般も手掛ける。お洒落なショールームは全国に20店舗ほど。ベトナムにも1店舗。

さて、インタビュイーは現在(2022年)も代表取締役である渡辺孝雄氏。
一言でまとめると「小さい会社規模ゆえに差別化を図らねば、と、1986年頃から戦略的にデザインで戦っていくコンセプト(「キッチンに住む」)を打ち出し、30年掛けてそれが支持されるようになった。問屋だけでなくエンドユーザに直接アプローチすることを常に意識してショールーム等も力を入れる」。
ブランドとは「会社全体、使っている素材から商品、市場に対するイメージまですべてを包括したもの」とのこと

正直、ここまで読んできて、最初の3社は「自分の既存のスキルをそのまま活かし、自分が欲しい物(いいと思ったもの)を作っていたら時代に当たって売れました」的な面がそこそこある感じがするのですが、この社長、最初から最後まで頭で考えて実行している感があってとてつもないです。
  1. 日本はデザイン製が低いから将来的にデザインで差別化できると考えコンセプト化
  2. ステンレス加工の技術を持っているからステンレスで戦える(チープな素材と思われていたがきちんとデザインすればきれいで扱いやすい素材)と考えステンレスに絞った
  3. 日本の狭い住宅事情を考慮した3Dキッチンという新たな手法の展開
これらがしっかりじっくりハマっていったこと。

そして大事なのは、これら住宅に組み込まれる系の商品というのは、問屋や工務店等を通してエンドユーザーに売られるものであるから、通常は問屋の方を向いてしまいがちなところを、エンドユーザーをしっかり見ているということ。
メーカー側に入る金額を仕切率というのだそうで、問屋はこれが低いほうが儲かるので、「半値八掛け二割引」でメーカーの希望小売価格が100万円だったとしても、メーカーには30万しか入ってこない、みたいなことがよくあるらしい。
問屋の方を向いていたら問屋が勧めたくなるような価格設定や商品をしてしまいそうですが、トーヨーキッチンはこの仕切率を上げた。
最初の数年は売上は落ち込んだとのことだが、結局ショールーム等で直接エンドユーザーにプレゼンテーションすることなどから、高くても指名でエンドユーザーが購入してくれるようになって売上も戻ってきた(2012年当時)。
なんてきれいなブランディングなんでしょうかね…。

デザインに関してはやはりインハウスで、最終判断はやはり渡辺社長。この点においてはスノーピークと同じですね。
なかなかキッチンという特定の分野で、しかも海外と事情の違う日本でいいデザインをできる人は外にはいない。
製品の面から言えばさらに、あまり大量生産せずに手作業で作っているというのが特徴のようです。
なので値段はあまり下げられないし大量には売れないが、「新しい製品を出して様子を見て、当たらなかったら製造を辞める」という判断が柔軟にできるという強みがある。
渡辺社長が安易に「ブランドが確立されたから大量生産だ」とならないところもスゴい。

そしてこのトーヨーキッチン、この対談では「ブランドは増やさない、確立するまでが大変だから」と言っているのですが、このインタビューの2年後の2014年にまず社名を変え、「システムキッチンとインテリアのトーヨーキッチン」としてリビング領域にも進出し、コンセプトは「住むをエンターテインメント」と進化させている。2016年にはイタリアのインテリアブランド「Kartell」の日本総代理店に。

この本には出てきていませんが「有名な老舗菓子屋は、ずっと変わらないように見えて実はロゴを少しずつ時代に合わせて変えていたりする」という話のように、トーヨーキッチンも状況を見て姿を変えていっていることが伺えますね。なんなら「キッチンに住む」というコンセプトも2008年に掲げたものらしい。(もっと昔からそのコンセプトがあったのかと思ってしまった)

作り手として、ブランドイメージありきではなく、いいものづくり&戦略&プレゼンテーション、そしてそれを束ねる世界観としてのコンセプト、そしてそれが自社のモノづくりやエンドユーザーのイメージも含めて循環するという力関係が見えてきて、教科書みたいな会社だな、と思ったのでした。

ドラフト

1978年、現在も代表である宮田識氏が個人事務所として設立。
宮田氏個人でも多数の賞を受賞し、広告・デザイン業界では有名デザイナーらしい渡邉良重氏、植原亮輔氏などを排出(という表現で合っているのか分かりませんが)、設立50年目にして現在も存続している。

我々もどれか一つは目にした記憶があるであろう有名な広告等を手掛けている、THE・アーティストといった感じの方です。
詳しくなくて恐縮ですが、ほぼ日の糸井さん…のような、個人がブランドになっているタイプの方のようです。

さて、一言でまとめると「若い頃から興味のあったアートが(広告の)デザインとして評価され、モノづくりや経営から入り込んでこそのブランディングである、という思想で実績を積み、事務所を設立した後もデザイナーやモノづくりのエコシステム(生態系)の維持を念頭に置きながら活躍している」。
デザインとは「基本的に呼吸なんでしょうね、買う人との。」とのこと。
この方はメーカーの経営者というわけではない(D-BROSというプロダクトブランドのオーナーではあるが)ので、この本の中では若干異質です。

この方ご自身のブランディングという点で言えば、アートの面で少なからぬ才能(実力)があること、さらに経営やモノづくりのレベルからかなり本格的に入り込んでブランディングしていきたいしそうすべきだ、という発想を20代のかなり早い段階から実行に移し、実績を作っていった(作ることができていった)ことが大きいと思われます。
ぱっと見、若くから天才的で真似しようと思って真似できるようなものではないと思うのですが、「モノづくりや経営から入るべきだ」という発想や、「このまま会社を普通に経営していると下が育たないから、会社の形態を変える」など、あるべきだと思ったことをなんとも実直にやっていく潔さ(強さ)というのは見習いたいところです。

特に「モノづくりや経営や販売までやるべき」のために、実際にドラフトはD-BROSというプロダクトブランドにおいて製品づくり~販売を行っています。頭では理解しているつもりでいたクライアント(メーカー)の大事なところが、自分たちでやってみて初めて分かる、というわけですね。
個人的にはこのD-BROSは社内教育用という意味合いを強く感じましたが、「世の中にはびこらないものはデザインとは言わない」ということらしく、おそらくある程度はびこっているんでしょうね。(残念ながら私は知りませんでしたが。)

さらに興味深いのが、フリーランス時代の20代中盤で請けたあしかけ数年の仕事で自然や生態系に関する内容を学んだことが、「ブランディングは経営やモノづくりから入り込んでやるべきだ」という思想や「普通にデザイン会社を経営していると下が育たない」という歪んだ状態を正したいという思いを、裏付けているように見えるところです。
ちょうど本書のインタビュアーである西澤さんと宮田さんが2022年6月にも対談している記事があり、ここではブランディングは、多様性であり、生態系。同じ土地にいろんな草が生えていて、お互い生きている状態をつくること。と締めくくられているのです。(かっくい~!)

思想・スキル・実行力・人間性、と四拍子揃ったまさに天才・・・・に見えるわけで、憧れられるわけですね。
多くの凡人は一人でここまでできないので、なんとかスキームを作って人を集めて成り立たせていくわけなのですが、だからこそ自分にはどこまでできて、誰には何ができて、そこをしっかり互いに認識をあわせて差配していくという取り組みが大事なのでは、と感じました。

六花亭

1933年、帯広千秋庵として開店。誰もが知るマルセイバターサンドなどの菓子を展開する北海道のお菓子メーカーとして有名。
北海道にのみ20店舗弱の直営店を持ち、それ以外の施設も保有する、従業員が1300名を超える大企業です。

一言でまとめると、「機械や流行りに左右されて菓子を変えるのではなく、実直に美味しい菓子を作りつづけ、それが結果的にブランドになる。採用は『勤勉』という能力を持つ人材を採用することにこだわっている。」
ブランドとは「古くならない。時間に耐えられる商品。さらに言えば時間とともに価値が増す商品。」とのこと。
この対談では小田豊氏が社長として登場していますが、現在の代表は佐藤哲也氏。
公式サイトの沿革を見ると創業は1933年となっているのですが、Wikiによれば色々と系譜はあったらしい。
ともかく戦時中も生き抜いて、代表が変わっても変わらずブランドとして君臨し続けている、というのはまさに本物の「ブランド」という感じがしますね。

ここでやはり特徴的なのは、「マルセイバターサンドのビスケットは何回変えたかわからない」のところ。本書では35年、つまり2022年には45年も経っています。
「ずっと変わらないのがブランドだ」のようなイメージがまだまだ一般的なのかなと思いますが、より良いものに時代に合わせて変えていいんだ、変えていくべきなんだ、とさくっと気付かせてくれますよね。

そして「勤勉は能力である」と言い切り、それを採用時に重要な指針にし、さらに毎日啓蒙している。
勤勉とは「自分を律すること」と「自ら立ち上がってやる」ということ。
面白いのは、小田豊氏ご自身が「私が好きなように採用すると、ついフォワードばかり採ってしまうんですよ。自分がそういう性格なので」と言っているところ。
しっかりご自身の好みの話と、ブランドを維持する経営判断としての採用を分けておられる。これも実は地味にすごいことなんじゃないでしょうか。
性格(内面的な)がある程度判断できるよう、そういう採用テストを導入しているというのも実直。

北海道から出ないのは、店を増やしたり規模を拡大するのが目的ではない、ということと、お菓子作りに向いている勤勉な人材が北海道で採用できるから、ということらしい。すごいな。

さらに本書では登場しませんが、いわゆる地域や社会を作っていく的な活動も積極的に行っているようす。
1955年に掲げられたという基本方針では、「おいしいお菓子を作ろう 楽しいお買物の店を作ろう みんなのゆたかな生活を作ろう そして成長しよう」とあり、まさにこれだけを菓子を起点に実直にやっているように見える。資本主義ってなんだっけ?と言いたくなってしまう、THEブランドですね。

この記事を書いているのは2022年末ですが、本書出版からちょうど10年後にあたりますので「この対談のあと10年の間に6社はどう変わったんだろう?」というのも興味深かったのですが、六花亭が最も安心感がありました。
「良いものを作り続ける」「勤勉な人を採用し続ける」という、一昔前の「良いものを作っているだけでは売れない時代です」にカウンターパンチ食らわすようなブランディング。このマーケティング・ブランディング戦国時代に、結局最強ブランドとして君臨し続ける六花亭、イカすぜ!

※真面目に考察すると、やはり食というのは何がどう進化してもその欲求は変わらないものなので、SONYやTOYOTAが同じ哲学で同じことができるかと言われると流石に難しいとは思うよね。

さいごに

以上、企業研究としても非常に面白い体験となりました。

本書は対談集ということでかなり読みやすいのですが、各企業の基本情報や歴史についてはあんまり言及がないので、それらの事前知識がない人が何も考えずに読むと若干上澄みを救う感じになる気がします。
それでも「ブランディングとは」を考えて言語化や手段を考えていくきっかけとしては非常によい本だと思います。

最後に本書のインタビュイーである西澤氏と中川氏の対談で簡単なまとめが載っており、頭の整理もし易いと思います。
その中で出てきたのは「一気通貫」という言葉。
その中では、「戦略・戦術・戦闘」という3段階があり(2022年現在は「マネジメント・コンテンツ・コミュニケーション」という表現に変更になっていると思われる)、いわゆる広告のデザインをきれいにする、みたいな個別手段に近い部分を「戦闘」といっており、それよりも上から責任を持ってやるべきだ、ということですね。
それが上から下までちゃんと一貫した哲学や世界観で成り立っていなくてはならない。
これはまさにだと感じました。

それからブランドに関する本はいくつか読んだことがあって、例えば河合拓さんの「ブランドで競争する力」によれば、
  1. 機能価値  (商品そのものが持つ価値)
  2. サービス価値(ホスピタリティとかに代表される価値)
  3. イメージ価値(ブランドが醸し出すイメージの価値)
3つの価値のどれかを顧客に対して保証するものがブランドで、そのために日々の活動スタイルを見直すことを通じて、事業の体質そのものを変えていく活動がブランド化、とのことでした。

本書でも「ブランドを作る、というよりは、育てていくところが本質」ということでタイトルを「そだてかた」に変更したという経緯が書かれており、天才的なデザイナーに一発スゴい広告や意匠を作ってもらうだけではそれはブランドにならないんだ、といのをヒシヒシと実感できます。

あらゆる立場の人に有用な一冊なのではないでしょうか。